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act.4哀婉ドール<130>
「洗ってもらったんだけど、さっき濡れちゃったから」
「ふぅん」
聞いてきたくせに京介は特に関心を持たず、我が物顔で葵のベッドに座り込んでしまう。だから葵は一旦京介の相手はそこそこに、着替えるためにシャツのボタンを外していく。京介は葵の腕のことを嫌というほど知り尽くしている。隠すことはない。
でも、京介は葵の腕ではなく、別の所に関心を示した。
「それ何?」
「ん?何って何が?」
脱ぎかけのまま京介を振り返れば、ますます彼の顔が険しくなる。”こっちへ来い”、そう手招きをされて大人しく近づくと、脱ぎかけだったシャツのボタンに手を掛け、最後まで外されてしまった。
「一人で着替えられるよ?」
「そうじゃねぇよ馬鹿。お前、何された?」
「だから、何の話?」
脱ぐのを手伝ってくれるつもりなのかと思ったが、そうではないらしい。京介はツンと葵の肌を突いて睨みつけてくる。その指の先には紅い斑点。
「これ付けたのどっち?会長?副会長?」
「……ん、多分、櫻先輩」
茶色い瞳を見つめ返しながら犯人を告げれば、京介は盛大に舌打ちをしてみせた。
「多分ってお前、会長にも何かされたのか?判断つかないってことはそうだよな」
京介が何を言いたいのか分からない。どうして怒っているのかも想像が付かなくて、ただ黙って彼の言葉の続きを待つことしか出来ない。
「つーか、このシャツ、こんなボタン付いてたか?」
「これ、聖くんが付け直してくれたの。聖くんね、お裁縫得意なんだって。すぐに全部縫っちゃったんだ」
京介の視線は葵の肌からシャツへと移された。指し示されたのは聖がくれたガラス製のボタン。その綺麗なボタンと、聖の手先の器用さを自慢したくて京介に返事をしたのだが、それはより彼の眉間に皺を寄せることになる。
「なんでそんなことになったわけ」
「ボタン、取れちゃって」
「だから、なんで」
京介の強い視線に射抜かれると、誤魔化しが効かない、そう思わされる。
最初は同級生に絡まれたことだけを伝えたはずが、結局その前に一ノ瀬に服を脱がされかけたことまで暴かれてしまった。
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