494 / 1636
act.4哀婉ドール<132>
「指、突っ込まれた?まさかヤラれてはねぇよな、さすがに」
チュッと音を立てて一度唇を離すと、京介は窄まりを突いてそんなことを尋ねてくる。
でも生憎葵には京介の質問の意図がちっとも分からない。
確かに京介からは”おまじない”の一環としてそこを舐められ、指先を押し込められたことはある。都古にも全部舐めたいと言われ、そこに舌を這わされたこともあった。だが、一応はそうした理由を提示されてねだられる行為以外にそこに触れられる意味が理解出来ない。
「やる、って何を?なんで指、いれるの」
「あぁ、良かった」
葵がちっとも納得が行かない様子を見せれば、何故か京介は安堵したように息をついて、そしてようやく下着から手を抜いてくれた。
「分かんないならそれでいい」
すっきりした顔の京介とは裏腹に、葵はもやもやとしたまま。京介も隣で横になり葵を抱き寄せてくるが、それで今の一連の行為を無かったことにはできない。
「京ちゃん、今の何?なんで?」
「……知りたい?」
咎めるように京介のシャツをぐいと引っ張って見上げれば、いつもの調子の、少し意地悪な目を向けられた。だから葵も負けじと頷きを返してみる。でも京介はまるで聞き分けのない子供を扱うように葵の頭をぽんと叩いてきた。
「もうちょっと準備してからな。さすがに今は無理」
「準備?」
「そ。まぁでもそろそろ悠長なこと言ってらんねぇよな。先に食われたらそいつ許せねぇし」
京介の言葉はやはり葵には何を示しているのか見当もつかない。
「俺も、我慢の限界だし?」
そう言って京介はもう一度葵に口付けてくる。京介が一体何を我慢しているのか。それもやはり葵には想像がつかない。でもただひとつ言えることがある。
「我慢、しなくていいよ?」
京介が望むことがあるなら、そしてそれが自分に出来ることなら何でもしようと思う。京介は今まで葵に沢山の物を与えてくれたけれど、葵は何一つ返せていない気がする。だからもし何かすべきことがあるなら教えてほしかった。
「お前、マジで危険だよな。理性なくなるからやめろよ、そういうの」
「……ごめん」
何がいけなかったのだろうか。良かれと思った発言を叱られれば純粋に悲しくなってしまう。京介の目を見ることが出来ない。葵は俯き、段々と視界がぼやけていくのを、唇を噛んで堪えた。
「ちげーよ。お前のために言ってんの。今俺が我慢しなかったら確実に泣かせるから」
「どうして?我慢されるのも、やだ」
「だから……もう」
京介はもっと強く葵を抱き締めて顔を覗き込んできた。その表情は苦笑いが浮かんでいる。
ともだちにシェアしよう!