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act.4哀婉ドール<133>
「お前さ、俺のこと好き?」
「好き、大好き」
「どんぐらい?」
好きかどうかは即答出来る。でも程度を聞かれると何と表現したら良いのか分からない。
「いっぱい、好き」
「もうちょっとマシな言い方ないのかよ」
最大限の表現のつもりだったのだが、京介からはまた笑われてしまう。
「まぁいいや。俺もお前が好き。だから、他の奴に触られんのはムカつく。それは分かる?」
「おまじない、京ちゃんだけ、だから?」
「はぁ……マジでどうしようもねぇな。いや、俺の責任なんだけどさ。どうすっかな、これ」
困ったようにぐしゃぐしゃに髪をかき乱されては葵だって困惑する。今日は京介とちっとも上手く会話が出来ない。一日ぶりに会えたというのにこれでは寂しすぎる。
「とりあえず、兄貴と都古にはこの痕消えるまで晒すんじゃねぇぞ」
「……怒られちゃう?」
「兄貴は発狂するし、都古は多分歯止め効かなくなる。あいつ理性ねぇし嫉妬深すぎるから、気ぃ付けろ」
どのぐらいで痕が消えるかは分からないが、それまで冬耶と一緒にお風呂に入ることも出来ない。都古が体中にキスしてくるのもしっかり止めなくてはきっと上半身は簡単に脱がされてしまう。
どう考えても不安な約束である。
「自信ねぇなら俺から離れんな。分かった?」
「……でも京ちゃん、居なくなっちゃうもん」
「何、置いてったのまだ拗ねてんの?」
一昨日の夜、急に煙草を買いに行くと言って出て行ったきり結局朝方まで戻ってこなかったことを指摘すれば、京介からはこつんと額を弾かれた。
「バイトもある、でしょ?」
「まぁな」
「じゃあ離れちゃうよ」
今はこうしてくっついていられるけれど、また京介は葵の知らない場所に出掛けてしまう。葵の知らない人と時を過ごす。そう思うとなんだか胸がちくりと痛んだ。
離れたくない。
そう伝えるように京介の胸に頬を寄せて葵からも強くしがみついてみせる。
「お前が寝てから出掛けるから。な?」
それなら寂しくないと言いたげだが、知らないうちに居なくなられるなんて余計に辛い。
「いってらっしゃいって言いたいから、ちゃんと起こして」
せめてそれだけは約束してほしい。京介を見上げて告げた願いは、珍しく柔らかい笑顔と共に落とされた口付けに飲み込まれてしまった。
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