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act.4哀婉ドール<136>

食事を終えても冬耶や京介から葵はちっとも離れようとしない。都古のことはしっかりと膝枕で癒してはくれるけれど、二人きりの時間はまだ与えてくれないらしい。 ゆるゆると髪を梳く華奢な指先の感触を楽しみながらも、都古の感じる寂しさはなかなか消えてくれない。 自分は葵のペットで、ただ静かに寄り添う存在でいなくてはダメ。そう頭では分かっていても油断すればすぐに二人でベッドにこもってしまいたいという欲が頭をもたげてくる。あのガラス玉みたいな瞳に映すのは自分だけであってほしい。 でも今ご主人様が求めているのは家族での団欒。都古は葵が落ち着くまでジッと耐えねばならない。 「お勉強、疲れちゃった?」 「……うん」 欲を堪えるようにきつく目を瞑れば、それを察した葵が声を掛けてくる。 リビングのテレビから流れるバラエティ番組は都古の耳には騒がしい。葵の柔らかな声だけを聞いていたいというのに。 葵がそこまで真剣にテレビを見ているわけではないことは分かっている。でも人気のテーマパークや施設のイベントを紹介する番組を見ながら、冬耶や京介と今度家族で行きたい場所を会話する葵は楽しげで、消してなんて言えやしない。 けれど、葵は都古のこともきちんと考えてくれる。恋心にはちっとも気付いてくれないけれど、表に出にくい都古の感情の機微には人一倍敏感で居てくれる。 「お昼寝する?お部屋、行こっか」 都古にだけ聞こえるぐらいの声量で、また葵が話し掛けてきた。 「いい、の?」 「どうして?いいに決まってる」 驚く都古に葵は笑顔を向けてくれる。都古の全部を受け止めてくれる優しい笑顔。これを見るたびにどうして泣きたくなるほど愛しくなるのか分からない。 「抱っこ、したい」 「僕がもっと大きかったらみゃーちゃんのこと抱っこ出来るのに」 都古が身を起こして葵を抱き締めようとすれば、葵は少しだけ残念そうにそんなことを言ってきた。小さい葵を抱くのが都古にとっての幸福だけれど、葵はそうではないらしい。葵が望むなら小さくなってもいいが、現実的にそんな願いは叶わない。 「もう、伸びない。だから……許して」 一年で随分と成長してしまった都古はせめてもっと大きくならないことを誓うが、葵は不思議そうに首を傾げてくる。 「大丈夫。僕が大きくなるから」 「都古よりデカくなるなんてもう無理だろ」 葵の宣言を聞きつけて即座に否定してきたのは京介だった。確かに彼の言う通り、ちっとも成長の兆しを見せない葵が今から180近い身長になるのは絶望的だろう。 ではやはり自分が縮んでやるしかないのだろうか。

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