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act.4哀婉ドール<142>

「あーちゃんに手出してないよな!?」 『だから、抜け駆けしてないって。今は』 「……本当か?」 今まで絶大な信頼を寄せていたのだが、途端に心配になってきた。葵はきっと遥の言う事なら何でも聞いてしまうし、大好きで仕方ないのだ。この策士にかかれば、上手く言いくるめて葵を可愛がることだって出来そうな気がする。 “今は”とあえて付け加えてくる辺りも信用ならない。 『いや、していいんならすぐにでも手出すけど』 「するな!したら絶交だからな」 『絶交って、子供じゃないんだから』 叱っても遥は呆れたような声を出すだけ。ちっとも響いていないのだから余計に冬耶の感情を揺さぶってくる。 『いつも言ってたよな、誰が葵ちゃんの恋人になっても良いって。俺はちゃんと幸せにしてあげる自信あるよ。冬耶もそう思うだろ?』 「だから、それはあーちゃん自らが選んだ場合!あーちゃんに求められる前に触ったら反則、ルール違反、一発退場」 遥が葵を幸せにする、それは確かにこの先の未来として存在してもいいと思う。彼の自信が根拠のないものだとも感じない。だが、物事には順序というものがあるだろう。 葵にいつか心の底から愛する人が出来るまで、惑わせるような事は一切させたくない。 『でもスキンシップを通して初めて芽生える感情だってあるよ?一概に悪だとも思えないけど』 「いいか?俺は、あーちゃんとチューもハグもする前に好きになったんだ。だから必須項目じゃない」 『子供の時の話だろ?』 初めて会ったあの時からずっと葵に捕らわれている。遥は呆れているようだが、葵にはきちんと幸せな恋愛をしてほしいのだ。その順序を守らせようというのがそれほどおかしいこととは思えない。 『言っとくけど、過保護にしすぎるのも危ないからな。守るんなら徹底的に守ってやらないと』 「わかってる」 『頑張れよ、お兄さん』 そう言って遥はまた笑ってくる。意気消沈していたはずの冬耶がすっかり葵の保護に躍起になっているのに気付いたのだろう。いや、もしかしたらそうなるように会話の流れを仕向けたのかもしれない。 そして遥は一区切りするように一呼吸置くと、学園で冬耶の補佐として仕切っていた頃のような、少し冷たささえ感じるトーンに声を変化させた。

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