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act.4哀婉ドール<145>

「お前は?どうすんの、大学。お前ならどこでも行けるだろ」 話題を変えれば、葵は京介から目を逸し、少しだけ俯く。 「どうしよう」 「何、悩んでんの?好きなことやりゃいいじゃん」 「大学……行ったほうがいい、かな?」 「は?そこから?」 葵がまだ進路を決めかねているのは察していたが、まさか進学自体を悩んでいるとは思わなかった。でも理由も簡単に思い当たる。どうせ費用のことを気にしているのだろう。 それに、葵の視線がベッドの上で転がる都古にもちらりと向けられたのに気が付いた。都古は進学の道をきっと選ばないだろう。どうやって生きていくつもりなのかさっぱり予測できないが、葵なりに都古と共に過ごせる方法を考えたいのかもしれない。 「一緒に居られるのは、高校まで、なんだね」 寂しそうにぽつりと漏らされた呟き。皆と居たい、葵がそう願っているのは分かっている。それを叶えてやらねばならないとは思うけれど、葵にいつまでも”皆”を望まれても困る。 「……選べる?お前」 「何を?」 「例えば、俺か、都古か。考えたことある?」 葵は京介が与えた問いかけに目を丸くし、そして固まってしまう。この様子では葵が二人のどちらを選ぶか、考えたことなど一度もないようだ。だが、葵が懸命に捻り出した回答は京介の予想を更に上回ってくる。 「ベッドが狭いから、ってこと?」 「ちげーよ。今日寝る相手の話じゃない」 「じゃあ、何の話?」 わざわざ説明するのも馬鹿らしい。けれど、この幼馴染は京介と都古が葵とどういう関係になりたいのか理解出来ていないのだから仕方ない。 「今日だけの話じゃなくて、これからずっと一緒に居るとしたら、お前は誰がいい?」 どうせ答えは出せないだろうが、考えるきっかけぐらいは与えておきたい。そうやって少しずつ葵の思考を成長させなくては、この関係は変わらない。 でもこれは葵をただ苦しませる質問だったらしい。葵はすっかり黙ってしまい難しそうな表情を浮かべている。 「葵、風呂、行って来い」 「……うん、そうする」 これ以上この会話を続けても無駄だろう。京介が葵にバスルームへ向かうよう提案すれば、今度は葵も素直に頷き、テーブルに広げたテキストとノートを仕舞い始めた。 一緒に入りたい、葵にそうねだられたけれど、今理性には自信が持てない。だから着替えを持たせた葵をただ一人、部屋から送り出した。 葵が階段を下りる軽い足音が微かに聞こえてくる。そうして初めてベッドの上の塊がのそりと動いた。

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