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act.4哀婉ドール<146>
「勝手なこと、言うな」
「起きてたのかよ」
いつも無表情で冷たい都古は、今は更に不機嫌な顔をしている。どこからかは知らないが、京介と葵の会話を聞いていたのだろう。
「葵に選ばれる自信、ないわけ?」
問いただすように見やるが、都古は答えることはなく、寝相が悪いせいですっかり乱れた髪を結い直している。
自信がないのは京介のほうだ。長い時間共に過ごしたというのに、葵を独り占め出来ていないのだから、ただ傍に居るだけではダメなのだと痛感している。でも、これ以上どう動いたらいいのかが分からない。
「選ばれなくても、好き。傍に、居る」
悩む京介をよそに、都古は揺るがない決意を口にしてくる。仮に他の誰かを葵が選んだとして、気持ちは揺るがないと言ってのける。それほど心酔しているのだと臆せず宣言出来る彼が羨ましい。
「お前って、すげぇよな」
「何が?」
ヘッドボードに体を預け気だるそうな様子を隠しもしない都古は、京介の率直な感心にも興味がなさそうに欠伸を繰り返している。彼にとっては当たり前過ぎることなのだろう。
高等部から編入してきた彼とは同じクラスになり、最初はクラスメイトとして言葉を交わした。その頃の都古は無愛想で人付き合いが下手ではあったけれど、もう少し柔らかな雰囲気だった。
何故こんなにも人嫌いになり、葵にしか心にも体にも触れることを許さなくなったのか。その理由は、京介も理解している。
こうして明らかに眠そうだというのに、葵が居なければ眠らない。葵が居るか、鍵の掛かる個室に一人きりでいるか。そのどちらかでなければ彼が熟睡出来ないのも知っている。
京介が葵しか頭にないことは都古も十分分かっているのだろうが、都古自身どうにもその性質は改善出来ないようだ。
「寝てろよ。一回部屋戻るから」
京介が都古を気遣って腰を上げれば、彼は再びベッドに体を沈めた。やはり京介が居ては気が休まらないらしい。
葵は都古の心の傷の原因を理解はしていない。性行為が何かも正確な知識を持ち合わせていない葵にそれを求めるのは難しいし、都古自身がこれを知られるのだけは恐れている。葵に思いを寄せる男としては当然だろう。
正確に事情を把握しているのは京介と冬耶、そして遥だけ。実際、彼の実家から強引に都古を避難させ今の環境を作ってやったのは京介達だ。
葵はただ家族とトラブルがあった。そんな曖昧な情報だけしか知らないというのに、それ以上聞くこともせず都古の全てを受け止めようとしている。
もし葵が京介を選んでくれたのなら、未だ深く傷を負っている都古を突き放せと、自分は言えるのだろうか。
“お節介”
そう悪態を突いてくる猫の顔が浮かんで苛立つけれど、京介にはそれを振り切るだけの勇気がどうしても出なかった。
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