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act.4哀婉ドール<148>

「わかった、連絡しとく」 京介は葵の手を握り返し、約束してくれた。不安がないと言えば嘘になるが、今の状態からは脱したい。自分が簡単に取り乱し惑わされてしまうから、周りを傷付けることになる。以前よりはマシにはなってきたけれど、まだまだ自分には成長する必要があった。 こうして彼等の腕の中で甘えていられる時間にも限りがある。だからこそ、焦りが心を埋め尽くす。 「ちゃんと頑張るから。心配しないでね」 夕食後の会話で京介が将来の道を決めていることを初めて知った。自分がその邪魔になるような存在にはなりたくない。涙を零すたびに彼の腕の中に駆け込み、抱き締めてもらうのは苦しい。 自立して、その上で京介の隣に堂々と立っていたい。 都古との関係もそうだ。彼は葵以外に心を開かず、葵だけを頼りにしている。体の大きさでは彼に敵わないけれど、彼を守ってあげるためにもっと強くなりたい。 でも葵の決意を聞いて、京介からは苦笑いが返ってくる。 「葵、そうやって無理すんな。お前が頑張ってんのは知ってるから。で、お前が無理して自爆すんのも知ってる」 京介の指摘は正しい。身の丈に合った頑張り方が出来ず失敗も沢山してきた。 「ごめん、今度は大丈夫」 「だからそうじゃねぇって。一人で抱え込むなよ。宮岡のとこも一緒に行くから」 葵の性質を分かりきっている京介はそうして支えてくれようとする。いつもそうだ。それが嬉しくて、そして哀しい。いつまでも彼の足を引っ張るような存在では居たくない。 「……京ちゃん」 「んー?」 早速宮岡への連絡を取ってくれようとしたのか、携帯をいじり始めた京介が言葉だけで返事を返してくる。ぶっきらぼうだけれど、決して冷たくはない。利き手を葵に取られているというのに、振りほどこうとはせず左手だけで器用にメールを打ってくれていた。 「京ちゃんのために出来ることって何かな」 本当はこんなこと、本人に聞きたくなどない。でも葵には分からなかった。 自分がこの家に居て西名家に何のメリットがあるのか。考えても考えても答えが見つからなくて、あの男に何も言い返せなかったのだ。 紗耶香の手伝いは精一杯しているけれど、それもこうして家に戻った時だけ。普段寮生活を送っていてはそれすらまともに出来ていない。身近にいる京介に対してもそうだ。いつも世話を焼いてもらっているのは葵のほう。せいぜい試験前に彼の勉強をサポートしてやるぐらい。 「何かしてくれんの?」 「うん、何かしてほしいことある?さっき我慢してるって言ってたこと?何でもするよ」 「お前さ、俺以外に言うなよ、そういうの」 叱るように繋いだ手にチクリと爪を立てられた。痛みを感じるほどではないが、それでも怒られると萎縮してしまう。自分が何か京介の為になりたいと思うことは不要なのだろうか。 けれど、葵の不安を拭うように京介が葵と向き合うために寝返りを打ってきた。

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