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act.4哀婉ドール<150>

「お前さ、だから起きたんなら早く言えよ」 「……起きたく、なかった」 都古が起きたことを知って京介は顔をしかめるし、葵を後ろから抱き締める都古の声は不機嫌だ。せっかく眠りについていたのに邪魔してしまっては当然だろう。だから葵は都古をなだめるために体の向きを変えてみる。 「みゃーちゃん。起こしちゃってごめんね。眠ってていいよ」 「俺が、寝たら……また、するの?」 向き合った都古は葵の唇を拭うように指を這わせながら、悲しそうに眉をひそめてきた。京介とキスを交わす行為が都古を傷付けてしまう。その理由が分からない。 好きな人とする挨拶。そう教えてきたのは京介であり、都古だ。だから照れはあるけれど二人とは何度も繰り返してきた。でもそういえば、なぜか彼等は葵としかしない。 「消毒、しよ」 「人を汚ぇもんみたいに言うなよ、馬鹿猫」 二人はお互い好き、ではないのか。葵を挟んで睨み合う二人を見上げて不意に不安になってくる。 忍も櫻とは同じベッドで眠ることはしないと言っていた。確かに仲良しなはずなのに、自分と彼等の違いは何なのか。 葵がそんなことをぼんやりと悩むうちに、ムキになった都古にはキスと落とされ、離れるなりまた京介に引き寄せられる。二人して競り合うように唇を奪ってくると次第に考え事などしている余裕などなくなってしまう。 「……も、ムリ」 二人がかりで変わるがわるキスをされたことなど無かった葵が何度目かでそう降参すれば、ようやく二人は我に返ったように葵から離れてくれた。 そして、今度は二人から”もう寝ろ”とばかりに強制的に布団の中に押し込められてしまった。随分と勝手だ。 どうして二晩続けて疼く体を自らの手で抱き締めて眠らなければならないのか。熱くなっているのはたっぷりと啄まれた唇だけじゃない。葵は布団の中で熱く火照る場所を隠すようにぎゅっと丸める。 都古からは詫びるように首筋から背中にかけてキスを落とされるし、京介も繋いだ手の甲を指で擦ってくる。 それがより体を震わせて苦しいのだとは分かってもらえないらしい。 葵は二人からの触れ合いに集中するのではなく、頭の中で無数の羊を飛び跳ねさせる。京介の”おまじない”ではない。羊の数を数えるという古典的な”おまじない”を今夜は試すことにしたのだった。

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