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act.4哀婉ドール<151>

* * * * * * 日付が変わるかという頃。夜もすっかり更けた学園内はシンと静まり返っている。自らが待ち合わせに指定したのはその中心部にある中庭。校舎と寮のちょうど中心に位置するそこは、芝生が敷き詰められ、日中は生徒たちの憩いの場になっている。 ベンチにごろりと寝転がっていれば、少しだけテンポの早い足音が聞こえてきた。 「……幸ちゃん?」 彼しか呼ばない名前。体を起こせば、そこには少し難しい顔をした奈央が立っていた。 「ずっと連絡寄越さないと思ったら、こんな時間に呼び出して。何考えてるの?」 「すまん。ちょっと色々あって」 「”色々”で済ますの?」 普段は身長差があるものの、幸樹がベンチに腰掛けている状態では奈央が幸樹を見下ろすことになる。咎めるように金髪頭を小突いてくる奈央は怒りよりも、寂しげな顔をしていた。 「幸ちゃんはいつもそう。葵くんのこと気にしてるのは分かるし、あの時僕が怒ったから気まずくさせたのは謝る。でも、顔も見せないで生徒会辞めようとするなんてあんまりだよ。自分勝手すぎる」 奈央の言うことはもっともだ。自分でも馬鹿らしい行動だったと思う。でもそれしか思い浮かばなかった。自分の顔を見て、葵はあの夜の記憶を蘇らすかもしれない。そしてまた取り乱して……。そう思えば自分のちっぽけな想いなど捨てたほうがいい。そう思った。 「友達じゃないの?言ってくれればよかったのに」 奈央は幸樹を咎めるだけではない。こうしてなぜ自分に相談しなかったのかと悔しげに告げてくる。彼は初めからそうして幸樹に歩み寄ってきてくれた。幸樹側が堂々と友人と呼べるのは京介と、そして奈央ぐらいだ。 「……すまん、奈央ちゃん」 「いいよ、もう慣れた。僕もぶっちゃったし」 頭を下げて謝れば、奈央は苦笑いでそれを受け止め、隣に腰掛けてきた。湖から帰ってきた時奈央には確かに叩かれた。でも暴力に不慣れな彼からの攻撃など幸樹にとっては大したものではない。 「一応、葵くんにはそれが原因で僕と幸ちゃんが喧嘩してることになってるから。戻ってきてくれないと僕が困る」 「喧嘩?俺が奈央ちゃんと?」 「そう。まさか本人に言えって?葵くんのこと気にして生徒会辞めるつもりだ、なんて」 確かにそれを告げられれば葵が傷付くのは目に見えている。やはり幸樹の行動は軽はずみだった。

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