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act.4哀婉ドール<153>
「だからな、藤沢ちゃんの様子見て決める。それを奈央ちゃんだけには伝えとこって思ってな」
「不器用だね、幸ちゃんは。葵くんは幸ちゃんに会えなくて寂しがってるのに」
奈央には溜め息混じりでそう言われるが、彼は幸樹のそうした性格を諦めてもいるらしい。立ち上がり、再び幸樹を見下ろす奈央のこげ茶色の瞳は先程までとは違い穏やかな色が浮かんでいた。
「あんな脆い子、どう大事にしたらええか分からんもん」
「葵くんは幸ちゃんが思ってるほど弱くないよ。でもまぁ……頑張れ、幸ちゃん」
ぽんと幸樹の頭に手を乗せ、奈央は背を向けた。そして別れの挨拶を告げずに寮へと向かい出す。あっさりとしているけれど、そこには確かに器用に生きられない友人への励ましが感じ取れた。
無茶苦茶ばかりする幸樹をどうして奈央がここまで気に掛けてくれるのか。いつも疑問に思ってしまう。今も寮の中へと消える奈央の背中を見送りながら、幸樹は対照的な自分たちの友情について考えてみた。だが、やはり答えは出ない。
自分もそろそろ学園を出よう。
幸樹がようやく思い立ったのは、結局奈央が消えてから随分と時間を経た後のこと。月明かりだけが静かに差し込む中庭は今の幸樹にとって随分と安らげる場所だった。
だが、幸樹が重い腰を上げて校門へと向かおうとすると、その静けさを破る車のエンジン音が聞こえてくる。うるさいわけではないが、この空間では無機質な音がよく目立つ。
校門からロータリーへと真っ直ぐに向かってきた黒塗りの車は、嫌なことに見覚えがあった。闇夜に金髪はよく映える。あちらも幸樹の存在に気が付いたようで、車はロータリーを越え、わざわざ中庭前へと停車された。
一番に降りてきたのは運転席に居た黒服の男。お坊ちゃま校では運転手付きの車など珍しくはないが、スーツでも隠しきれないほど鍛えられた体躯の使用人はそうそういないだろう。
彼は幸樹に一礼すると、後部座席側の扉を開け、中の人物を外へと誘いだした。
出てきたのは燃えるような赤髪の男。幸樹を見てにやりと口元を歪める仕草は獲物を見つけた獣のよう。
「よう、上野のお坊チャン。何してんの?」
ふざけた口調だが金色のカラーコンタクトを嵌めた瞳の奥はちっとも笑っていない。
今幸樹が思うのは奈央が彼と鉢合わせなくて良かったという安堵。幸樹が奈央とこの時間に会っているのを見つけたら、彼はまず奈央をターゲットにして遊び始める可能性が高い。その点、幸樹だけであれば互いに大きくダメージを負うだけの争いになる。そんな馬鹿な事はしてこないだろう。
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