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act.5三日月サプリ<1>

* * * * * * ぼやける視界の中、起き抜けに一番に確認するのは携帯のディスプレイ。表示されているのは五月五日。特別な日であるはずなのに、届いているメッセージは一通だけ。 開けばその送り主は予想通り従兄。今年から大学に通い始めた彼は、繁華街から少し外れた場所にある雑貨屋でバイトをしている。今日は出勤日らしい。遊びに来たら好きなものを買ってやると、そんな事が書かれていた。 それ自体はありがたい言葉。でもこんな風に毎年欠かさず声を掛けてくれるのは彼ぐらいだ。もやもやとした感情が湧き上がるのも例年通り。けれど、親からも忘れられているのだ。求めることはとうに諦めた。 ベッドから抜け出て共用のスペースに顔を出せば、同じタイミングで相棒も部屋から現れる。自分たちは朝一番から息が合う。 「おめでとう、爽」 「うん、聖もね。おめでとう」 聖が今日という日を祝う言葉を先に投げかければ、爽もにこりと笑い返してくる。こうして互いが居るからまだ気持ちは保たれる。こんな時双子に生まれて良かったと心から思う。 眠気覚ましの珈琲を入れるのは爽の係。簡易キッチンに置いたコーヒーメーカーを操作しながら、爽はカウンター越しに話し掛けてきた。 「なぁ、葵先輩にちゃんと伝わってるよな?」 爽が心配しているのは今日約束を交わしているはずの葵とのデート。本人と会話をしたのも、冬耶に申込んだのももう三日前のことだ。携帯を持っていない葵とはあれから会話も出来ていないし、確かめられてもいない。 でも冬耶からはきちんと了承の連絡は戻っていたし、聖はそれほど心配していない。昨夜からずっとそわそわと不安そうにしている爽よりは楽天的なのだ。 「それより、今日は俺が先にチューするから」 「いや、会えなかったらチュー出来ないじゃん。それ分かってんの」 「会う、絶対会う。今日葵先輩に会わないって選択肢は俺にない」 聖が断固として言い切れば、同じ顔がくしゃりと歪んだ。 「確かに。待ち合わせに来なかったら西名先輩に鬼電して家乗り込もう」 爽も聖と比べれば臆病なだけで、きっと平均からすれば随分と悪戯好きの部類だ。今だって葵に会いたいと願いながらも、西名家に乗り込むのも楽しそうだという顔をし始めた。 これでこそ自分の相棒だ。聖は満足げに彼から淹れたてのコーヒーが注がれたカップを受け取った。

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