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act.5三日月サプリ<2>

待ち合わせに指定したのは従兄の雑貨屋がある街の駅。従兄から誘われなくとも、センスの良い雑貨の並ぶ店には元々葵を連れていきたいと思っていた。そこで何か三人で揃いのものを買いたいと考えてもいる。 あまりにも今日という日が楽しみで、自分たちで設定した時間よりも早く駅に着いてしまった。当然のように葵の姿はまだそこにない。居ればあの容姿だ。一瞬で見つけることが出来る。 今駅前で一番目立つ存在は間違いなく聖と爽。整った顔が二つ並ぶだけでも目立つのに、二人の服装が全身揃っていることもその要因だろう。体のサイズに対してかなりゆったりとしたサイズのコクーンニットに黒のスキニー、そしてヴィンテージの革靴。 ニットと靴の色味は、聖がアイボリーとブラウン、爽は両方共黒で揃えているから印象は大分違うけれど、それでも同じシルエットが並べば目を引く。 今日が初めてのデート。本当はもっとかっちりとした服を着ようかと悩んだが、カジュアルな服装の葵と並んだ時に彼が気負ってしまうのは避けなければならない。違和感のないよう工夫した結果、無難な格好に落ち着いた。 しばらく注目を浴びながら待ち合わせの時間が来るのを待っていると、時刻ぴったりに改札口に待ち望んだ人影が現れる。あちらもすぐに聖と爽に気が付いたらしく駆け足でこちらに寄ってきた。そんな行動一つで二人を簡単に喜ばせる。 「聖くん、爽くん、おはよう」 葵は少しの距離だというのに走ったせいか、頬を染めて見上げてくる。叶うなら今すぐにでも抱き締めてあげたいが、後ろから番犬のような男達が近づいてくるのに気がついてしまった。 派手な柄物のシャツを着ている冬耶と、すでに不機嫌そうな顔をしている京介。葵の幼馴染だという彼等は当たり前のように葵に着いてきている。冬耶は双子に親しげに手を上げてくるが、生憎それを広い心で受け止める気にはなれない。 「……あの、葵先輩、まさか今日あの人達も一緒?」 「ううん、ここまで一緒に来てくれただけだよ。二人もここでお買い物する予定なんだって」 聖が慌てて葵の手を引き尋ねれば、のんびりとした答えが返ってくる。確かにここは学園を基点として考えれば若者の街として栄えているし、ショッピングの場所として選ばれるのは自然だ。でもどう見ても二人で仲良く買い物を楽しもうとする空気は感じ取れない。 葵自身に知らせていないだけで、兄弟がこのデートを見張りに来ている可能性は十分に有り得る。

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