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act.5三日月サプリ<4>
「まずはどこ行く?二人は行きたい場所ある?」
当たり前のように聖と爽の真ん中にちょこんと収まり、繋いだ手をブンブンと振りながら見上げてくる葵はとびきりはしゃいでいるように見える。
デートのコースは綿密に決めている。でも新鮮な反応が見たいからまだ手の内は明かしたくない。
「「お楽しみ」」
合わせる気が無くても爽とは言葉が被る。先輩ぶりたい葵はあくまで双子がリードするつもりなのだと知って少しだけ残念そうだったけれど、すぐに気をとりなおして双子に委ねてくれた。
三人が出発すれば当然のように大柄な兄弟も距離を空けながら同じ方向に進んでくる。双子が葵を誘拐するとでも思っているのだろうか。
高校生男子一人も送り出してやれない兄弟に呆れるのは聖だけでなく爽も同じ。ちらりと視線を投げれば、爽もうんざりとした顔で苦笑いをしていた。
護衛を引き連れながらはじめに向かったのは駅前から真っ直ぐに伸びる通りにいくつも並ぶ携帯ショップ。歓迎会のはじめに決意した、葵に携帯を持たせるという目的は忘れていなかったのだがなかなか機会がなかったのだ。
「新しい携帯、買うの?」
まずは聖と爽が契約している会社のショップへと連れ込めば、葵は少し不思議そうに尋ねてくる。デートの初めから二人の用事に付き合わされると勘違いしても、ちっとも嫌な顔をしない。
「「葵先輩のですよ?」」
「……え?僕の?なんで?」
「さ、好きなの選んで」
「俺らと同じのにします?」
携帯がずらりと並んだ棚の前に連れ込んで選ばせようとすれば、葵は慌てて首を振って二人の間から抜け出ようとしてくる。でもがっちりと手を握っているのだからそう簡単に逃しはしない。
「だって必要ですよね?学園に居る時はまだいいけど、休みの日は今回みたいに冬耶さんか西名先輩に連絡しなきゃでしょ?」
「近いって言ってもわざわざ隣の家まで伝えに行くの大変じゃないっすか?」
葵が他の誰かと連絡が密に取れない状況は歓迎するが、自分たちが葵と仲良くなるのには妨げでしかない。葵が学園に居ない時あの兄弟とどのぐらいの距離感で過ごしているかは知らないが、直接連絡を取る手段がなければこうして毎回お邪魔虫をひっつけることになってしまう。
「で、でもダメ。お金貯めてるから」
「大した額じゃないですよ。ほら?」
けしかけたからには自分達が責任を持って料金ぐらい払ってやるつもりだが、ストレートにそれを言っても納得しない性格なのは薄々感じていた。だから聖は棚の上に貼り出された基本料金のプレートを指し示してみた。
葵も全く興味がないというわけではないらしい。真剣にそれを見ては悩み始めた。もうひと押しで行けるかもしれない。そうやって期待を持って待っていれば、近くで強い視線を感じる。兄弟のどちらかかと思えば犯人は自分の弟だ。
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