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act.5三日月サプリ<6>

「爽くん、ここに用事あるの?」 ガードレールに体を預け爽を待つことに決めると、葵からは当然のようにそんな疑問が投げかけられる。 「……あいつ、こうやってアピールして。小賢しいんですよ」 「ん?どういうこと?」 聖が悪態をつけば、葵が少し不安そうな視線を向けてきた。歓迎会中に目の前で派手に言い争いをしたからか、葵は双子のすれ違いが心配らしい。でも聖だって好きで爽に文句を言いたいわけじゃない。 「ギター始めてるんです、爽。部屋から下手くそな音聞こえてくるし、こうやって目の前でわざとらしく楽器屋に行くし。俺が折れるの待ってるんです」 爽が今居るのは楽器屋。大方弦でも買いに行ったのだろう。いつだって同じ趣味嗜好で生きてきたはずなのに、爽は聖に断りもなく勝手なことを始めだした。 爽が今一つだけ所有しているギターの色違いは聖の部屋にもある。いつかの撮影で使用した小道具を記念にとプレゼントされたのだ。だから爽が始めたいと誘ってくれたら聖だって付き合ってやっても良かった。音楽は元々二人共好きだ。よく一緒にライブにも行っていた。 でも爽はいつまで経っても聖を誘わない。 「聖くんが折れるって?爽くんがギター弾くのが嫌なの?」 「嫌っていうか……だって、爽、一人でやる気なんですよ?俺は?いつも俺がやろうって言ったものをやってきたのに」 以前二人の喧嘩の仲裁をしてくれたのは葵だし、葵は何でも聖の言葉を受け止めてくれるという安心感があるからこうして素直に愚痴を零せる。 「じゃあ聖くんも何か始めたらどう?やりたいことは?」 「……やりたいこと?」 「そう、ない?」 葵に問われ、聖は一応自分の好きなもの、楽しいと思うものを思い浮かべてみる。今まで沢山のことをしてきた。でもその全てに爽も一緒に居たのだ。彼が居ないと何も楽しくない。唯一爽なしでも楽しいと断言出来るのは葵と居ることぐらい。 「葵先輩と二人きりでデートとか?」 「もう、真面目に聞いてるのに」 「俺も大真面目なんですけど。それしか浮かばないもん」 葵にはサイズの大きいキャップのツバの下までわざわざ顔を突っ込んで至近距離で口説けば、葵は照れたように視線を逸してきた。 思わずそのまま唇を奪いたくなるが、ここは多くの人が行き交う街中で、視界の端っこにシルバーとオレンジの頭がちらちらと映ってくる。きっとこんな場所でキスを仕掛けたら途端にあの兄弟が警護しにくるだろう。

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