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act.5三日月サプリ<7>

「聖くん、寂しいんだ?」 「別に。寂しくなったら葵先輩が一緒に居てくれるんでしょ」 「いいよ、いつでもおいで」 おかしそうにクスクス笑いながら、葵が繋いだ手に力を込めてきた。きっとこの人は聖が求めたらきちんと甘えさせてくれる。葵自身が泣き虫で甘えん坊なのは明らかなのに、どうしてこうも懐が深いのか。 「でももっとクラスメイトとも仲良くしなきゃダメだよ。今度は一年生だけのイベントもあるし」 「あぁ、なんかそんなこと担任が言ってたかも」 「全然興味ないね。しょうがないなぁ」 葵は入学から一ヶ月経っても双子がクラスに全く馴染めていないことに気付いているようだ。ランチの度に葵の教室に押しかけているのだから当然かもしれない。 入学早々、学園で注目を集める葵、京介、都古のトリオに取り入ったことや、最近では生徒会の面々とも接触していることが双子への反感を煽っている。元々二人も仲良くする気はないし、むしろ入学時よりも事態は悪化しているかもしれなかった。 「葵先輩、留年してよ。先に卒業しないで」 誰に疎まれようと葵と最大限の時間を過ごしたい。でもそれには限度がある。期限付きの関係なのだから同級生との交流よりも葵と共に居たい、そう願うのは罪なのだろうか。 「それ、僕もね、お兄ちゃん達が卒業する時に思ったよ。同じ学年だったら良かったのにって」 「……葵先輩も?」 聖の悲痛な願いを跳ね除けることはせず、葵はただ静かに自分の思いと重ね合わせてくれる。その声の穏やかさだけで泣きたくなる。 「でも思うんだ。もしあのままお兄ちゃん達が残ってたら、きっと聖くんや爽くんに声を掛けてなかったかもしれない。多分こんな風に仲良くなれてなかったよ?」 なだめるように葵が聖を見つめてくる。 「別れの分、新しい出会いがあったから。聖くんも沢山大好きな人、見つけてほしいな。……って、これは僕の大好きな人の受け売りなんだけど」 葵がはにかむように笑い、ガードレールからぴょんと飛び降りた。爽がようやく店から出てきたのだ。 「まだあと二年ある。いっぱい思い出作ろうね」 「……俺、葵先輩と同じ大学行きます。それがやりたいこと。ダメですか?」 二年じゃちっとも足りない。だから聖は爽の元へ駆け出そうとする葵の手を少しだけ引いて自分の元に留めてみせる。 でも葵はさっきのように”いいよ”とは言ってくれなかった。ただ困ったように笑うだけ。 どうして同じ道を選んではいけないのか。聖は葵の不安定な表情に妙な胸騒ぎを覚えたが、何も知らない爽が帰ってきてはそれ以上の会話を続けることは出来なかった。

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