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act.5三日月サプリ<8>

* * * * * * 人通りもまばらになった頃、ようやく目的の店が見えてきた。意識しなければ見逃してしまうほど入り口は小さく、看板も目立たない。 「……ここ?」 聖との間にいる葵も、この店に導かれて少しだけ不安そうな顔で見上げてきた。無理もない。”OPEN”とプレートは掲げられているが、店内の様子は小さな窓から覗けるものの、薄暗いせいではっきりとは窺えない。一見さんにはハードルが高すぎる店だ。 でも二人はここの常連。それに従兄も今中で働いているはず。 「大丈夫っすよ、きっと気にいるから」 先に扉を開けて中に入ろうとする聖の代わりに、爽が葵を勇気づけてやる。すると、不安の色しか無かった瞳にはほんのりと期待が混ざり始めた。 「うわぁ……すごい」 「「どう、葵先輩。びっくりした?」」 聖と爽の予想通り、葵を店内へと招き入れれば途端に感嘆の溜息が零れてくれた。店内は外観とは裏腹に奥に開けた空間が広がっている。高い天井から無数にぶら下がる多種多少な形のランプと、棚に無秩序に並べられた無数の雑貨。でも決して雑然とはしておらず、幻想的な世界が作り出されている。 店内に置かれたものは全て売り物。雑貨だけでなく陳列棚も、雑貨が積まれたテーブルも、所々に置かれた椅子もソファも、気に入れば購入することが出来る。 仕事で海外に行く度にこうした年代物の家具や雑貨を取り扱う市場に出掛けることが趣味だったが、そのきっかけはこの店との出会いだ。 「こういう所、絵本で見た。あのね、魔法の道具がいっぱい売ってるんだ。そこで主人公が沢山買い物するんだよ」 うずうずしている葵の手を離してやれば、途端に手近な棚を覗いてはそうして二人に話し掛けてくる。ファンタジーな夢物語が好きな先輩は、やはりこの空間が大層気に入ったらしい。 でもそれを楽しく聞いていた二人の気持ちとは裏腹に、葵はすぐに表情を曇らせて口を噤んだ。 「……ごめん、子供っぽいよね。魔法とか信じてるわけじゃなくて、似てたから」 二人にはあくまで頼れる先輩で居たいらしい。恥ずかしそうに俯く葵を可愛くは思っても、幼いと馬鹿にする気なんて毛頭ないというのに。

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