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act.5三日月サプリ<11>

「でも誕生日にデートしてるってことはもう付き合ってんの?」 「まだ付き合ってないし、監視つき」 爽が路面に面した小窓を指差せば、有澄はランプから手を離し、その指の先に視線を投げかける。 「監視?……って、うわ、魔王じゃん」 どうやら有澄も外で待ち伏せる男の存在に気が付いたらしい。冬耶が生徒会時代に”魔王”と呼ばれ、恐れられていたのは聞いたことがあるが、同級生であるはずの有澄まで冬耶に畏怖の念を抱いているような口ぶりだ。 「保護者付きのデートってあり?」 「早速苦労してるってわけな。でもすごいじゃん、誘えただけでも大したもんだよ。藤沢ちゃんに近づこうとする数多の男が魔王と閻魔のコンビに消されてたんだから」 「閻魔?」 「副会長の相良遥」 その存在は学園内でも噂で耳にしたことがある。葵からも冬耶だけでなく、卒業生にもう一人、親しい人物が居たことは何度か聞かされてきた。 「相良さんってどんな人?やっぱ冬耶さんみたいな感じ?」 「いや、タイプは全然違うよ。美人だし、雄臭くないっつーか。相良自身もモテてたよ」 「……それって男にっしょ?」 爽が顔をしかめれば、有澄からは”当然”と笑い飛ばされた。男子校なのだから当たり前だろう。 でも葵のことを好きになったとはいえ、爽は別に男が好きなわけではない。学園内でいちゃつくカップルを見かけるのも未だに慣れない。有澄がいい学校だと勧めてくれなくては、きっと男子だらけのこの学園にも編入しようとは思わなかった。 「でも女関係で揉めてたんだから、男子校で良かっただろ?」 有澄の言う通り、高等部に編入するまで普通の公立校に通っていた聖と爽は、よく女性関係のトラブルに巻き込まれていた。でも別にひどい遊び方をしていたわけではない。 双子の容姿に群がる女同士での蹴落とし合いと、女子生徒を独占する双子に嫉妬する男子生徒からの攻撃。二人がいくら関与したくないと言っても、周りはちっとも放っておいてくれなかった。男子生徒からの双子へのイジメが過度になりすぎたため、見かねた有澄が転校をアドバイスしてくれたのだ。 有澄の母もそれに賛同し、妹である双子の母、リエを説得してくれたことも大きい。だがリエは双子のことを心配して編入させてくれたわけではない。これ以上体に傷が付かない、そして女性とのスキャンダルを避けられる、そんなメリットを見出しただけだ。

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