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act.5三日月サプリ<12>

「今は葵先輩と仲良くして恨まれてるけど」 「ハハ、だろうね。でもまさかなぁ、男だらけは嫌だって言ってたくせに。染まっちゃったか」 「葵先輩が可愛いのが悪い。あんな可愛い生き物、他に知らないし」 今だって聖と一緒に雑貨を見て楽しそうに笑っている姿は爽が出会った誰よりも愛らしい。見た目も行動も可愛くて、でも双子を癒やしてくれる内面も大好きだ。 「爽ちゃん、優しい顔になったね。安心した」 「聖は?」 「聖ちゃんも。ああやって手を引く対象はいつも爽ちゃんだったじゃん。自立してきたのかな」 有澄は笑ってくるが、爽は少し不安だった。聖はただ固執する対象を一人増やしただけな気がする。爽と一緒に行動しないと落ち着かない様子も変わらない。 葵を取り巻く先輩たちは皆それぞれの形で葵を支えている。双子の弱点は、”自分”がないこと。それにいち早く気付いてしまった爽が辿り着いたのは前から興味のあった音楽に携わることだった。ファッションよりも音楽の道に進みたい。 ずっと言い出せずにいたことを、最近少しずつ形にし始めてきた。聖も察しているはず。でも”いい”とも”悪い”とも言わない。爽が言い出すのを待っている。 「爽、これ有澄に買わせようよ!」 今だって有澄と会話を続ける爽を少し苛立った声で呼びつけてくる。まだ兄は弟離れ出来ないらしい。 「爽ちゃん、金額見といて。聖ちゃんは容赦ないから」 「でも有澄、何でも買ってくれるじゃん」 「そりゃ可愛い従弟だからね?でも君らのほうが稼いでるのに、高いもんばっかねだるのやめてよ」 有澄は優しい。でもメッシュで髪に印を付けておかなければ、十回のうち二、三回ほどは聖と爽を間違える。それに、有澄は人よりも本や古美術を愛している。だからきっと自分達は有澄を従兄以上の存在として好きになったり、精神的に頼ろうとは思わなかったのだと思う。 「爽、何してんの?」 痺れを切らした聖がもう一度爽を呼んだ。その声に従う前に爽は有澄に声を掛けた。 「……有澄、応援してくれる?」 「ん?いつだってしてるよ」 また修理作業を始めた有澄は爽の言葉にはもう顔を上げなかった。けれど、その声は温かい。 葵と仲良くしたい。でも葵の周りにいる人も皆個性的だけれど、それぞれ違った優しさを持っていることを知り始めていた。彼等とも仲良くなりたい。そう思っているのに、新参者の双子はどうしても輪から外されがちで寂しい思いをさせられている。 こればかりは自分達で居場所を確保しなくてはならないだろう。 今はまだこうして頑張れと背中を押してくれる存在は有澄ぐらいしかいない。でもめげずに頑張ればきっと良いことがあるはず。 聖と、そして葵の元に向かい始めた爽の顔は先程よりも少し、晴れやかになっていた。

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