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act.5三日月サプリ<14>

「何のって、聖ちゃんと爽ちゃんの誕生日プレゼントの話じゃないの?あぁ、二人にはもう用意してた?」 「誕生日?」 「え、まさか知らなかった?今日、だよ?」 これでようやく理解出来た。どうして双子が今日という日を指定したのか。有澄が彼等に贈り物をする話をしていたのか。 「なんで言ってくれなかったんだろ」 事前に言ってくれれば今日出会った時に真っ先に”おめでとう”と伝えることが出来た。二人のことを差し置いて他の誰かへの誕生日プレゼントを探そうとも思わなかった。葵に対して遠慮しているのだろうと思うが、それでも胸が切なくなるのは止められない。 「藤沢ちゃん、ちょっと話せる?」 呆然とする葵を見かねて、有澄がカウンター前のソファベンチの一つに葵を手招いてくれた。葵を座らせ、そして自分もその隣へと腰掛ける。 「誕生日って特別な日、だよね。でも二人は特別でも何でもないってフリをするんだ。昔っからね」 「フリ?」 「そう、本当は祝ってほしくてたまらないんだけどさ、何回も裏切られてきたから、期待するのに疲れちゃったんだろうね」 有澄が何を言いたいかは何となく分かる。素直じゃなく捻くれた双子の性質も、葵は短い付き合いの中でも察しているつもりだった。でも誰に裏切られてきたのか、それが気になる。促すように有澄を見上げれば、彼は話を続けてくれた。 「二人のお母さんはね、仕事人間なの。仕事しか頭になくて、聖ちゃんと爽ちゃんとも仕事を通してでしか関われない」 「もしかしてモデルやってるのも、お母さんのお仕事の関係、ですか?」 「そうだよ。小さい頃から二人はお母さんの元でずーっと働いてるんだ」 二人がモデルの仕事に対して前向きなことは感じ取れていた。色々な服を着れて、世界中飛び回れて楽しいのだとも言っていた。でもそれでしか母親とコミュニケーションを取る手段が無かったと聞くと、きっと言葉通りの感情ではないのだと思いやれる。 「でも誕生日だけは仕事を休んで、一緒に遊んで、ケーキを買ってくれる、そんな約束を毎年交わしてたんだけど。結局仕事が入ると忘れちゃう。リエさんも悪気はないんだけどさ。子供にしたら酷い裏切りだよね」 有澄は二人の母親の様子を思い出したのか、苦い表情を浮かべた。

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