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act.5三日月サプリ<15>

「結局、期待するのをやめちゃったんだよね。誕生日だけじゃなくてクリスマスも同じ。サンタなんて居るわけないって二人してキーキー怒ってたよ。俺はサンタさん信じてたのにさ」 最後に悪戯っぽく付け加える有澄は葵が必要以上に気落ちしないよう気を遣ってくれたのだろう。 でも葵は二人の性格の原点をこの話の中に見出していた。期待を持たされて、そして崩される。それが何度も繰り返されれば、初めから何も期待しないほうがマシだと、思ってしまうのも無理はない。 「ああいう性格だから友達も全然出来ないし、お互いが居ればいいって感じでしょ?心配だったんだよね、上手くやれてるか」 「今はまだクラスにお友達は居ないけど……でも、毎日一緒にお昼ごはん食べてます」 「そっか、仲良くしてくれてるんだね、ありがとう」 有澄を安心させたくて告げた事実は確かに彼の表情を柔らかくさせる効果はあった。都古とは喧嘩ばかりしているし、たまに七瀬ともやり合っているけれど、それは有澄の不安を煽るような気がして黙っておくことにした。 「二人が自分達の間に誰かを入れるなんて、見たことないよ。すごいね、藤沢ちゃんは」 「そう、なんですか?」 「そうだよ。二人の世界には誰も入れなかったもん」 当たり前のように真ん中で二人に手を繋がれていたけれど、それが珍しいことだと言われると途端にくすぐったい気持ちになる。二人のことをもっと知りたい。もっと仲良くなりたい。そんな感情が溢れて止まらない。 「聖くん、爽くん」 まだビーズを眺めている彼等の元に駆け付ければ、やはり手を広げて迎え入れてくれる。年上とか、年下とか、そんなことは関係ない。ただその腕に飛び込んで二人にきちんと”大好き”を伝えたかった。 「お誕生日、おめでとう。言うの遅くなってごめん」 「「……有澄、勝手に言うな!」」 二人にしがみついてまずは遅れた祝いのメッセージを告げると、二人は驚いた顔をして、そしてすぐさま告げ口した従兄を怒り出した。 「知っちゃダメだった?どうして言ってくれなかったの?」 「そうじゃなくて、ちゃんと段取りがあったんです」 「もう台無しだよ、有澄のせいで」 二人は葵をぎゅっと両側から抱き締めながら、心底残念そうに葵の頭を撫で回してくる。どうやら完全に隠すつもりではなく、どこかのタイミングで告げてくれるつもりだったらしい。

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