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act.5三日月サプリ<16>
「「でもありがと、葵先輩」」
そう言って両頬にキスを落としてくれる彼等はもうすっかり気持ちを入れ替えたらしい。嬉しそうににこにこと笑ってくれる、それだけで胸が温かくなった。
二人はプレゼントもちょうど選び終えたらしい。手には色の異なるヴィンテージビーズが連なる真鍮のチェーンが三つ掲げられていた。
「え、三つも買うの?なんで?」
「違う、これは自分達で買うから」
「有澄はまた今度美味いもの奢って」
有澄とそんなやりとりを交わしながら、二人はあっという間に会計を終わらせて葵の元へと帰ってきた。そしてチェーンの一つを渡してくる。濃い青色のビーズが付いたそれは輝く真鍮と混ざり合って綺麗なコントラストを生んでいた。
「はい、これ葵先輩の。本当は後で渡そうと思ったんですけど」
「誰かさんのせいで計画が台無しになっちゃったから、今渡しちゃう」
「え、でも貰う理由が……」
さっきアクセサリーを見た時も思ったが、葵の感覚からするとこの店に並ぶものは少し高い。中には希少なものもあるのか、驚くほど高額の値札も見受けられた。少なくとも気軽に受け取れる類のものではない。
「今日一緒に過ごしてくれるお礼じゃだめですか」
「でも二人には何も用意出来てないし」
「それは後でちゃんと貰うから大丈夫」
「……後で?」
何やら楽しげな双子はこの後の時間にも色々考えがあるらしい。それでも葵が受け取れきれずにいると、聖が葵のカバンのフックにするりと器用にチェーンを取り付けてしまった。
「こんな風にストラップにもなるし、ブレスレットとしても付けていいよ、葵先輩」
用途の問題ではない。でもここで断固拒否してしまうと彼等を傷付けることは目に見えていた。
「ちゃんとお返し、するから」
「「いっぱい、期待してます」」
一体何を求められるかが不安な笑顔が返ってくるが言ってしまった以上責任を取らなくてはいけないだろう。さっき以上に葵に両側からひっついてベタベタと甘える双子を振り払うことも出来ない。
それに聖も爽も、嬉しそうに自分達のカバンにもチェーンを付け出すのだ。お揃いのものを持つことは葵自身も嬉しい。
「二人をよろしくね、藤沢ちゃん」
有澄からは申し訳ないとばかりに手を合わせられる。
かなり捻くれ者で、強引で、ちょっと生意気。でも葵にとっては初めて出来た可愛い後輩だ。自分が卒業するまできちんと面倒をみる覚悟は出来ている。
だから二人の手を握ると、有澄に力強く頷きを返したのだった。
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