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act.5三日月サプリ<20>

「悪い、京介。怖かったよな」 「うるせぇ」 詫びるように伸ばした手は、簡単に振り払われた。 「もうあんな真似二度とさせねぇ。死ぬなんて許さない」 「分かってるよ、あーちゃんのことは絶対に守るから」 「違う、俺が守る」 ぎろりと睨みあげてくる京介は冬耶にすら鬱憤を溜めているようだった。家族皆で葵を守る。その環境を京介も支えていたけれど、やはり葵を自分の手だけで抱き締めて、守り抜いてやりたいらしい。 でもこうして苛立ちをぶつけてくるのは冬耶への信頼の証だということもわかっている。短気なように見えて対外的にはいつも一線引いてぎりぎりのラインで我慢していることは察していた。 「……宮岡、葵のこと知ってるらしい。藤沢の家のことも」 煙草を咥え始めて少し落ち着いた様子の京介は、医者の情報をもう少し打ち明けてくれた。でもそれを聞いて安心するどころか更に心をかき乱してくる。 「え、それ大丈夫なの?やばくないか?」 「味方だって言ってるし、悪意があるようには見えねぇ。葵治すのもそうだけど、もうちょっと宮岡から色々引き出したい」 冬耶が思っている以上に京介は頼もしくなった。一人で突っ走る所は褒められないが、随分と心強い存在だ。 「止めないから、代わりに全部共有してくれよ」 「わかってる」 「じゃあとりあえず今知ってること全部お兄ちゃんに話しなさい」 京介は少し迷う素振りをみせたが、そこまで冬耶を押しきれないことは理解しているのだろう。宮岡とのコンタクトから始まり、二度目に二人だけで会ったときの話もきちんと聞かせてくれた。 冬耶が彼の話を聞いて気になるのは、宮岡が持つ”切り札”と藤沢家に居るという”内通者”の話。しかも内通者は京介の知る人物だと言ったらしい。 「心当たり、あるか?」 「……あぁ、一人」 京介はさっぱり分からないと言いたげだが、冬耶には一人だけ思い当たる人物が居た。 「穂高くんのことじゃない?」 「誰?」 「覚えてない?あーちゃんのこと”お坊ちゃま”って呼んでた。多分あの頃中学生か高校生ぐらいだったんじゃないかな」 ヒントを与えると、京介の表情も段々と変化してきた。記憶が蘇ってきたらしい。

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