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act.5三日月サプリ<22>
* * * * * *
ランチを終えて次に向かう先もきちんと決めていた。公園内にある池。それ自体は何の変哲もないものだが、一緒にボートに乗れば縁が結ばれるという曰く付きのスポットだ。
葵もこうした遊びが好きだと思っていたけれど、誤算があった。
「……あの、水がちょっと、怖くて」
ボートに乗ろう、そう誘ったら葵は少し気まずそうに打ち明けてきた。よくよく聞けば泳ぐことが出来なくて怖いのだという。無理強いさせたくはないが、恋愛は成就させたい。
「俺たちが居るから大丈夫ですよ」
「そうそう、万が一落っこちてもすぐに助けられるし」
「だから、一言多いんだよ聖は」
安心させようと紡いだ言葉は、爽に肘で小突かれて怒られた。葵も”落ちる”ことを想像したのか、少し顔を強張らせている。確かに今のは失言だったかもしれない。さすがに聖もそう思う。
でも葵はしばらく悩んだ末に、二人の手を握る力を強めながら頷いてくれた。
「手、離さないでね」
こんな可愛いことを言って見上げられて、ノーと言える男は居ないと思う。けれど、生憎ボートを漕ぐには手を繋いだままではいられない。
「じゃあ俺が怖くないように先輩の両手握っててあげるから、爽にボート漕いでもらいましょう」
「え、それずるくない?」
「だって次俺の番って言ったじゃん。ボートでしたいもん」
次に葵にキスする順番は聖と決まっている。結ばれるというジンクスを叶えるためにも絶対に譲れなかった。でも爽も簡単には折れてくれない。それもそうだ。もし反対の立場なら聖だって全力で止めに入るだろう。
「ごめん、大丈夫。手繋いでなくても大丈夫だよ。僕も漕ぐし」
「「いえ、それは結構です」」
揉め始めた双子を気遣って葵からもたらされた提案。でも葵を不安にさせたままボートに乗せるのも、漕がせるのも、許すわけがない。それに葵にオールを持たせるのは安全面でも怖い。葵が運動全般とてつもなく苦手で、見た目通りひ弱なのは知っている。
「じゃあ最初半分は爽が漕いで、帰りは俺が漕ぐ。それでいい?」
「分かった。それならいい」
聖が妥協案を示せば、爽は満足げに頷いてきた。
爽を蹴落としてまで葵を独り占めしたいわけではない。聖の理想は爽との間に葵が居てくれる。そんな未来。たまには二人きりの時間も欲しいと思ってしまうが、でも自分は爽と葵、両方が居てくれないときっと幸せになれない。
一般的な恋愛の形ではないかもしれないし、随分欲張りな願望なのはわかっている。けれど、爽も同じ考えで居てくれた。歓迎会の後、二人で話し合った結論だった。
同じ人を愛するならこれからこうして折り合いを付けていかなければいけない。平和に解決した双子を見て、葵もホッとしたような表情を浮かべてくれた。
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