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act.5三日月サプリ<27>
* * * * * *
「先輩、二周目だけど飽きないんすか?」
弾力のあるラウンジチェアに深く腰掛けて葵が眺めているのは、二人が表紙を飾るブランドのコレクションブック。一旦最後のページまで到達したというのにもう一度頭から見直そうとする仕草をするから、黙って見守っていた爽は思わず声を掛けた。
ここは双子の母親が手掛けるブランドの事務所が入っているビルの一画。元々はフィッティングルームとして使われることの多かった会議室は、今ではすっかり双子の私物が置かれたパーソナルスペースと化している。
公園を出た後、本当は別のデートコースを用意していたが、葵の前髪を切るという魅力的な案が登場したため、こうして歩いてでも来られる距離にあったこの場所にやってきた。
母親は出掛けていたが、ブランドの顔である双子はわざわざ許可を求めずとも自由に出入りが出来る。今も聖は自由にフロアを動き回りながら、葵の髪を切るための道具を集めているところ。二人でその帰りを待っている最中だった。
「だって大人っぽくてかっこいいんだもん。帰ったら京ちゃんたちにも見せるんだ」
「いや、それはちょっと……」
「ダメだった?」
「いいっすど、西名先輩は俺らに興味ないでしょ」
自分達が好きなのは葵だが、葵だけと仲良くしたいわけじゃない。いつのまにか葵を囲む環境も好きになり始めていた。だからつい、自分達を邪魔者だと思っているであろう京介のことを思い浮かべて拗ねたような口調になってしまう。
「そんなことないよ。クラスにお友達居るのかなって心配してたし。京ちゃん、顔は怖いけど優しいんだよ」
葵は真摯に対応してくれるつもりなのか、開きかけた冊子を閉じて、向かいに座る爽に笑顔を向けてきた。
京介が優しいのは知っている。葵に対してはもちろんだが、文句を言いつつも都古に気を遣っているし、双子のことも排除まではしない。でもきっとその理由も葵のため、だというのはなんとなく分かり始めていた。
「葵先輩って、温かいっすよね」
「温かい?あぁ、体温は高いって言われるかも」
「そうじゃなくて……周りの雰囲気?だから皆に好かれるんだろうなぁ」
思えば初対面の時点で葵のこの柔らかな空気にほだされてしまった。ただ地元の同級生と離れたい一心で選んだ学校。本当はまともな学園生活を送るつもりなどなかったのだ。
でも爽の言葉に葵はゆるやかに首を横に振ってきた。
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