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act.5三日月サプリ<42>

* * * * * * 華やかに見える生徒会も実際は地味な事務作業が多い。だから役員に近づけるとか、学園の中心人物になれるとか、そんな邪な感情だけでは続かない。有志を募れば簡単に人は集まるものの、役員に適した生徒はなかなか見つからなかった。 「休み明けにしたら?急ぎの仕事でもないでしょ」 生徒会室にある大型のプリンターに向き合う奈央に声を掛けるのは、一人優雅にティーカップを掲げる櫻。彼の言う通り、奈央が今刷っているのは学園に貼る掲示物で緊急案件ではない。 「出来る時に終わらせたほうがいいから」 「真面目だね、人生もっと楽しみなよ」 「櫻はもうちょっと真面目になったほうがいいと思う」 暇だと言って寮からここまで着いてきたくせに手伝う素振りはちっとも見せない。彼は賢いし、人を従わせるのは上手い。役員にも向いているとは感じるが、如何せん仕事の好き嫌いが激しい。 「そうだ、絹川くんたちも今度手伝ってくれるって。役員になりたいみたい」 「絹川?あぁ、あの双子か。どうせ葵ちゃん狙いでしょ?却下」 つまらなそうにする櫻に話題を振ってやれば、彼は不愉快そうに眉をひそめた。彼のもう一つの問題点は嫉妬が激しいこと。葵を可愛がるのはいいが、他と仲良くさせたがらないのは困る。 「じゃあ僕らが卒業した後、葵くんが一人になってもいいの?」 「逆に聞くけど、葵ちゃんがあの二人に好き勝手悪戯されるのを見過ごせっていうの?」 「どうしてすぐそういう発想になるかな。仕事はしっかりやってくれると思うけど」 少なくとも櫻よりも、そう付け加えようとしたが彼が激昂しそうな気がして奈央は口を噤んだ。 「じゃあ今二人呼べば?葵ちゃんが居なくても仕事するか見定めてあげる」 ふわりと髪を揺らして奈央を見上げる櫻は、どう見ても仕事ぶりに難癖を付ける気満々に見える。これで良く今まで学園内で大きなトラブルに巻き込まれなかったと思うが、彼の容姿が我儘な振る舞いを許させてしまうのだろう。 「今日声掛けたんだけどね、葵くんと出掛けるんだって」 「……は?なにそれ、聞いてない」 「櫻には言わないでしょ、連絡先すら知らないんじゃない?」 不機嫌になるのは分かっていたが、彼を反省させるためにも奈央はあえて彼等の予定を教えてやった。葵が彼等と親密になっている。無理に追い払うのは葵のためにならない。そう考えてほしいからだ。

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