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act.5三日月サプリ<44>

「いいよ、奈央なら。腕組むぐらいだったらしてあげる」 潔癖症な彼は譲歩していると言わんばかりに微笑んでくる。もし櫻と腕を組んで彼が恋人だと紹介したら、確かに加南子のプライドは崩れるだろう。けれど、奈央も何か大事なものを失う気がする。 「ありがとう、でも自分で何とかするから」 「……忍、気にしてたよ。頼ってもいいんじゃない?」 忍も冷たいように見えて優しい。奈央のついた嘘を守りきれなかったことを気に掛けてくれていたのだろう。だから櫻にも相談をしたのだとわかる。 「じゃあ西名さんは?」 忍にも助けを求めるつもりはない。それを察した櫻が更に冬耶の名前を上げてきた。でも奈央は首を振って拒んでみせる。自分の問題で彼等の手を煩わせるわけにはいかない。 「これ、貼ってくるね。帰ったら僕の分も紅茶淹れて」 準備の整ったプリントを抱えて会話を切り上げれば、櫻は諦めたようにひらひらと手を振ってきた。手を差し伸べようとはしてくれるが、決して踏み込みすぎない距離感がありがたい。 生徒会室のある特別棟は基本的に一般生徒は立ち入らない。寮の専用フロアのように完全に施錠して閉ざしているわけではないが、気軽に足を踏み込める雰囲気ではないのだ。 校舎へと向かいながら、奈央は出てきたばかりの棟を振り仰いだ。学園内の施設の中でも特に豪奢な造りをしているそこは、確かに近寄りがたいのかもしれないと、奈央でさえ思う。 冬耶はいつかこの棟も生徒の憩いの場のようにしたいのだと言っていた。彼の人懐っこい人柄もあってそれは成功しかけたように見えたが、卒業までにその夢が叶うことはなかった。 連休明けから学園に再び現れるのだという、九夜若葉。彼の存在が冬耶の夢を阻んだ。当時まだ役員ではなかった奈央も、生徒会室でどんな事件が起きたのかは聞き知っていた。出入りすれば若葉に目を付けられる、そんな風評が広まったのは無理もないのかもしれない。 葵の面倒を見るだけではない。生徒会がもっと生徒にとって親しみのある存在になるように。そんなことを奈央は冬耶から託されていた。 ────出来る、かな。 問題が山積みで正直冬耶からの課題に手を付けられていないのが現状だ。まずは一つずつやるべきことをこなしていくしかない。 奈央がエントランスの掲示板に貼られた古い掲示物を剥がしながら、苦い気持ちを押し殺していると、後ろから弾んだ足音が聞こえてきた。

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