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act.5三日月サプリ<48>
未里にとって気に入らない存在である葵を懲らしめるため若葉を利用しようとしたが、あの野獣を飼い慣らすのは未里には少々難しい。ならば葵に歪んだ愛情を持っているこの教師を使うのはどうだろうか。
未里は手帳を元通りに仕舞うと、奈央に託された仕事の残りをこなしながら頭の中でこれからの展望を思い描く。
あからさまな危険人物である若葉が葵に近づけば目立ちすぎる。周りも黙ってはいないだろう。それに引き換え、薄気味悪い印象はあるが一ノ瀬は教師である。葵を呼び出して二人になることも難しくはないはずだ。
「未里、機嫌いいね。良いことあった?」
余ったプリントを奈央へと返却し寮へと戻れば、エレベーターホールで同級生から声を掛けられた。未里には”友人”と呼べる生徒は少ないが、自分の取り巻きと、生徒会役員のファン同士の繋がりは多い。彼は忍のファンだった。
「ちょっとね、面白いこと思いついたんだ」
「へぇ、何?”奈央さま”関連?」
「ん、まぁそんなとこ」
万が一に備えこの計画は誰にも打ち明けるつもりはない。笑ってはぐらかせば、目の前の彼はつまらなそうに眉をひそめてきた。
「未里って本当高山くん好きだよね。絶対忍さんのほうがカッコいいのに」
やってきたエレベーターに乗り込みながら彼はそんなことを言ってきた。確かに忍はかなりレベルの高い容姿をしているのは未里も認める。学園全体を取りまとめる会長としての任務にも力を発揮していた。けれど、未里が好きなのは奈央だけ。
それに奈央に思いを寄せる人物は一人でも少ないほうがいい。
「奈央さまのこと、好きにならなくていいよ。未里の王子様なんだから」
言い切れば今度こそ彼は呆れた顔で肩をすくめてきた。
ただ遠目から役員を眺めてはしゃぐような彼等と未里は違う。彼等は平和に役員のファンを名乗って応援しているだけ。葵のことも未里のように疎んではいない。むしろ葵のおかげで忍や櫻が公の場に出て来ることが増えたのだと感謝さえしている。
生徒会のファンの中には当然葵を愛する者もいるし、葵に対して分かりやすく悪意を向ければ未里の立場が危うくなるのは目に見えていた。だから未里は掴んだきっかけを大事に自分の胸に留めて、ただほくそ笑む。
少し嫌な目に遭えばいい。そんな軽い気持ちだったけれど、上手くいけば葵を生徒会から追い出すことも不可能ではないかもしれない。
そのためには慎重に計画を立てる必要がある。
エレベーターを降りる頃には。未里は悪巧みを悟られないよういつも通りの表情を浮かべていた。
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