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act.5三日月サプリ<49>
* * * * * *
今日一日で既に何本煙草を咥えて、何杯コーヒーを飲んだか分からない。葵が自分以外の誰かと過ごしているのを待つ苦痛は何度経験しても薄れない。
京介は苦い気持ちを押し殺すように新しく煙草を咥えようとしたが、ビルの玄関口から求めていた人影が現れたのに気が付き、その手を止める。時計を見れば、針はデートの終わりとして設定していた時刻を指し示していた。
でも葵は相変わらず双子にべったりと引っ付かれ、彼等の私物であるニット帽と伊達メガネを装着させられている。今の葵の服装には合ってはいるけれど、自分のキャップを被せてきたことが無下にされたようでどうしても苛立ちは増す。
そして何より、葵の目元と頬がほんのりと赤くなっているのが気になる。双子が両側から葵の腰を支えるように手を伸ばしていることも京介の不安を煽った。あの表情、仕草には覚えがある。
「あーちゃん、疲れちゃったみたいだな。いっぱい太陽浴びちゃったし」
冬耶は葵の様子をただ日光に弱いせいだと勘違いしているようだが、それは彼が頬にキス以上のことを仕掛けていないからだ。唇を奪って、体に触れれば、ああいう艶のある表情を浮かべることを京介は嫌というほど知っている。
「お兄ちゃん、京ちゃん」
葵もこちらの存在に気が付いたようで手を振って呼びかけてくる。その声も少し掠れているように思えた。一体双子に何をされたのか。
耐えきれなくて葵を迎えに近づけば、やはり散々吸われたことを示すように唇も赤く色づいていた。
「葵、俺のは?」
「かばんの中に入ってるよ」
皆まで言わなくても、ニット帽を突いて問いかければ葵も京介が何を言いたいのかすぐに理解してくれたようだった。京介は目的のものを探すついでに、葵の肩からバッグを取り上げた。
なぜか行きよりも重くなっている理由を探れば、バッグの中には京介のキャップだけでなく、冊子のようなものが詰め込まれていた。表紙を覗き見れば、このビルに掲げられていたブランドの名前が記されている。双子に持たされたのだろう。
「あれ、持って帰っていいいですよ?」
「それもプレゼントするのに」
京介が半ば乱暴に葵の身につける帽子とメガネを取り上げ彼等へと押し返せば、不満そうな声が上がった。”それも”ということは他にも彼等から何かを贈られたのだろう。
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