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act.5三日月サプリ<50>
「あのね、京ちゃん。二人今日誕生日なんだって」
「……だから?」
京介の心情など察してくれない葵は期待したような目を向けてくるが、生憎双子に祝いの言葉を口にしてやるほど今冷静にはなれない。
「兄貴に言ってきたら?」
不満そうな葵を遠くでただ静かに待っている冬耶へと差し向ける。葵は戸惑う様子を見せたものの素直に冬耶の元へと駆け出していった。これで双子と会話することが出来る。
「お前ら、葵に何した?」
「「合意ですよ?」」
睨みつければ涼し気な顔で声を揃えてくる。確かに彼等は葵のことを大事にはしている。無理に襲うようなことはしないとも思うが、葵は簡単に言いくるめることが出来るのだ。京介だってその性質を利用している。二人を責める権利はない。
「葵先輩にもうちょっと知識付けたほうがいいと思いますよ」
「あれじゃ危険すぎますって」
京介の気持ちを察しないのは双子も同じようだ。葵の無防備さを訴えてくる双子の声音は人懐っこい。葵からは彼等がきっと京介とも仲良くなりたいはずなのだと聞かされていて疑問を抱いていたが、この様子では葵の言うことは合っているのかもしれない。
親しげにされては怒鳴る気にもなれない。京介が双子に気圧されて口を噤めば、背後から呑気な兄の声が聞こえてきてしまった。このまま会話を続けるのはまずい。
「とりあえず、兄貴には余計なこと言うなよ。あれは葵の唇にすら触れてねぇし、周りも同じだと信じてるから」
「「……マジっすか」」
双子だけが怒られるならまだいいが、絶対に京介にも飛び火するだろう。回避するために彼等の口止めを図れば、二人は揃って唖然としたような表情を浮かべてきた。
「誕生日なんだって?おめでとう。だから今日遊びに行きたかったんだな」
何も知らない冬耶は、葵の手を引いて朗らかに笑っていた。
兄を裏切っていることに罪悪感を覚えないわけではない。けれど、葵と共に居て我慢しろというほうが苦しい。今だっていやらしさなど無いというのに、冬耶と手を繋いでいる姿を見るだけでまた眉間に皺が寄ってしまう。
冬耶に祝われた双子も普段の生意気な態度とは違い、素直に礼を返し喜んでいた。こんなやりとりを見せられると、葵に促された時に”おめでとう”、その一言ぐらい言ってやれば良かったと思わされる。でも後悔しても遅い。
まだこの事務所に留まるという双子とはその場で別れ、葵を真ん中に冬耶と三人、駅までの道のりを進んでいく。
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