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act.5三日月サプリ<51>

「聖くんも爽くんも、家族でお誕生日会したことないんだって。お母さん、お仕事忙しくて忘れちゃうみたい」 「そうなんだ?じゃあ今日はあーちゃんにお祝いしてもらえて良かったな」 「だといいな。でもプレゼントも何も用意出来なかったから、あんまりお祝いって感じじゃなかった」 京介のキャップを被る葵はツバのせいで表情が見えづらいが、声のトーンは少し寂しげに聞こえた。 葵は自分自身の誕生日はひどく嫌っているけれど、人の誕生日は全力で祝ってくれる。 ”出会ってくれてありがとう” 京介にも毎年そう言って微笑んで来てくれるのだ。同じことを京介だって葵の誕生日に言わせてほしいのだけれど、未だに素直には受け入れてもらえない。 「これも貰っちゃったし」 「おぉ、綺麗だな。ストラップ?」 「うん。ブレスレットにもなるんだって」 葵が指し示したのはバッグに付けた見慣れないチェーンの飾り。三人お揃いで買ってもらったのだという。それ自体は咎めるつもりはなかったのだが、”ブレスレット”、その響きに京介の表情は一段と険しくなってしまう。 「……あ、ごめん京ちゃん」 葵もそれに気が付いたのか、京介を見上げ、そして悲しげに謝罪を口にしてきた。 「いいよ、別に。もう気にしてない」 葵の誕生日に京介は手作りのブレスレットを贈ったことがあった。勝手な想いではあったが、自分のモノだと示すものを付けさせていたかったし、手首に付けさせることで噛む癖を抑止することも期待していた。 でも葵はそれを失くした。正確には体育の授業中傷がつかないようにとブレスレットを仕舞っていたペンケース自体が、グラウンドから戻ると忽然と姿を消していたのだ。 葵の私物が失くなることはそれまでも何度かあった。その度に泣きつく葵に付き合って教室や学園中を探すのを手伝ったけれど、見つかったことは一度もない。さすがに葵のせいではなく、誰かが意図的に盗んでいるとしか思えない状況だった。 だから葵を責めるのは違う。そう思っても、あの時の京介は葵をひどく怒ってしまったし、葵自身も失くしたショックでしばらくは笑顔を見せなかった。 「……ごめん」 もう一度、葵は小さな声で呟いた。 きっとこの場に冬耶が居なければ、京介はもう少し素直にあの時のことを葵に謝れたと思う。でも兄の前で葵を優しく慰めてやることはどうしても出来ない。

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