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act.5三日月サプリ<54>
* * * * * *
「あーちゃん、双子ちゃんも明日来れるって」
明日の予定を尋ねるメールに返信があったことを告げれば、葵からはとびきりの笑顔が返ってきた。
主役が来なくては始まらない。冬耶が”誕生日会”とは告げずにただ呼び出したことで二人はかなり警戒したようだったが、葵が待っていると言えば了解の文字が戻ってきた。
冬耶が誘った忍、櫻、奈央もそれぞれが予定を空けてくれると約束してくれたし、京介の元へも綾瀬と七瀬から楽しみにしていると回答があったらしい。これで誘おうとした人からは一人を除き、返事が来たことになる。
「……上野先輩は?まだお返事ない?」
「あぁ、まだ見てねぇのかもな」
葵が唯一返事の来ない人物の名を出せば、京介の表情が曇った。傍から見ている冬耶も京介の歯切れの悪さの理由は察しがついていた。
「急な誘いだから予定合わなかったのかもな。しょうがないよ、あーちゃん」
「そう、だよね。もっと早く誘えればよかったな」
幸樹が来ることはない。それをストレートに告げられずにいる弟をフォローしてやれば、葵は納得したように頷きを返してくれた。その聞き分けの良さを褒めるように髪を撫でると、葵は冬耶に身を凭れかけてくる。
「遥さんも……呼びたかったな」
友達が増えたことを報告して褒めてもらいたいのだろう。そして西名家を自分の家族だと告げる場に、心の支えとして遥にも居てもらいたいと願っているはずだ。兄として葵の願いは何だって叶えてやりたいけれど、こればかりは冬耶の力ではどうにもならない。
「はるちゃんには皆の写真撮って送ってあげたら?あーちゃんが楽しそうな所見られたら、きっとはるちゃんも安心するよ」
「そうかな?」
「そうだよ。沢山思い出記録しよう。お兄ちゃんがいっぱい撮ってあげるから」
明日冬耶はあくまで傍観者として参加するつもりだ。葵を今取り囲む面々の絆が深まる場に、本来は卒業した身である冬耶は居ないほうがいいとも思う。だから遠回しにカメラマンの役目を引き受けると提案すれば、葵は真意には気が付かず、嬉しそうに微笑みを返してくれた。
夕飯が出来上がるまでの間、買ってきたパーティーグッズを広げて準備を進めていくが、京介は向かいのソファに寝そべっているだけで手伝いはしたがらない。
今日一日双子とのデートを見守るだけでも苛立っていたというのに、明日もまた皆と親しくする葵の姿を見るのが京介なりに苦痛なのだとは思う。だが、冬耶としてはもう少し器用に葵と接して欲しい、そう願ってしまう。
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