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act.5三日月サプリ<59>
* * * * * *
長かった補習もあと一日で終わる。疲れきった頭と体ではその事実だけが都古の救いだった。でもよくよく考えれば、それは連休が終わるということ。葵との生活は再開されるが、休みなくまた授業が始まるのは辛い。
少しでも癒やしを求めて自分の部屋ではなく葵の部屋のベッドへと潜り込んでみたものの、一週間近く経てば持ち主の残り香はとっくに消えてしまっていた。
「……アオ、会いたい」
体は栄養を補給したがっているが、葵が口元まで運んでくれなくては食べる気がしない。とことんまで甘やかして面倒を見て欲しい。
きっとこのまま西名家に向かってねだれば葵は都古の期待には応えてくれるだろう。でも自分が甘えれば、葵が甘える隙がなくなってしまう。今葵が求めているのは家族だということぐらい、都古も理解している。だからあと一日、じっと耐えることを選択した。
だが、都古が早い眠りについてしまおうと目を瞑った時、訪問者を告げるチャイムの音が聞こえる。最初は無視を決め込んだが、確かに自分を呼ぶ声とノックが聞こえ、都古は渋々体を起こした。声の主に憶えがあったのだ。
扉を開ければそこにはやはり奈央がいた。でも予想外だったのは忍と櫻まで何故かおまけでついて来ていること。
「……ごめん、ちょっと様子見るつもりだったんだけど、一緒に来ちゃって」
都古が二人に対して敵対心を強く抱いていることは奈央も察しているのだろう。申し訳なさそうに謝られるが、ここで怒るのは体力の無駄だ。用件を促すように視線を向けると奈央は言葉を続けた。
「夕飯まだ?これからだったら一緒に行かない?」
「なんで?」
「なんでって言われても……」
困ったように笑う奈央が誰の差し金でやってきたかは想像がつく。冬耶に様子を見てくるよう言われたのだろう。冬耶のお節介も、それに従う奈央も、今の都古には迷惑でしかない。
「いらない」
「……先輩の誘い断ったって葵ちゃんに言いつけるよ?」
問答無用で扉を閉めようとすれば、忍が静かにそれを遮り、櫻が脅しを掛けてきた。どうして放っておいてくれないのか。都古は不快感を露わにしてみせる。
「ごめんね、言いつけるつもりは無いけど、食事取ってないかもしれないって言ってたのは葵くんなんだ。心配、してるみたいだよ」
ムキになって扉を閉め続けようとする都古に、奈央はそんな風に言葉で懐柔しようとしてきた。葵が都古を気にかけてくれている。それだけでささくれだった心が落ち着くのがわかる。
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