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act.5三日月サプリ<60>

「で、行くのか結局。単純だな」 「そういうとこが可愛いって言うんだろうね、葵ちゃんは」 「二人共、余計なこと言わないで。せっかく行く気になってくれたんだから」 外に出てしっかりと葵の部屋の鍵を閉めれば、背後から呆れた先輩達の声が聞こえてくる。だが別に都古は一緒に行く気などさらさら無い。葵に心配を掛けないために食事に行く、ただそれだけだ。 でも食堂に向かえば当然のように彼等も都古の後をついてくる。どうせ振り切っても追ってくるだろうから気にしないことが一番だ。 生徒会役員が三人も揃えば、連休中で人口は少ないとはいえ、食堂は一気に騒がしくなる。静かに食事を済ませたい都古にはやはり迷惑な存在だ。 「カラス、お前は嫌だろうが葵以外の生徒会とも密に関係していると見せつけておけ。牽制になる」 注文した食事をトレーに乗せて運べば、正面に座った忍がそんなことを言ってきた。彼は既に食事は済ませているらしい。コーヒーだけを手にしている。櫻に至っては手ぶらでただつまらなそうに髪をいじっているだけ。 一体何故彼等がそうまでしてついてくるのか、理解が出来ない。 「烏山くん、絡まれたんだって?絹川くんから聞いたよ。そういう時はすぐに生徒会に言ってくれれば間に入るから」 少し遅れてトレーを手にしてやってきた奈央から言われてようやくこの奇妙な食事会の意味を察することが出来た。彼等は彼等なりに都古のことを気に掛けているらしい。 だが双子が知っているのは一度目の揉め事だけ。二度目の喧嘩の場にいた櫻は何も話していない様子だ。 疑問を感じて櫻をちらりと覗き見れば、彼は小さく人差し指を唇に当ててきた。どうやら都古をけしかけ、放置してきたことは櫻にとっても忍や奈央にはバレたくないことらしい。 櫻を庇うつもりはないが、都古も自ら二度も絡まれたとは打ち明けるつもりはなかった。結果的に負けてはいないが、それでもプライドが許さない。 「あんたらより、強い」 勝手に心配するのは結構だが、この三人の誰よりも戦闘能力が高い自信はある。実際、複数を相手にしても大した怪我もせず乗り切ることが出来た。舐めないで欲しい、そんな苛立ちを込めて睨みつければ、三者三様の溜息が返ってくる。

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