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act.5三日月サプリ<61>
「お前が強いのは知っているが葵は?お前に突っかかった奴らは葵にも手を出そうとしたんだろう?」
「ただ力でぶつかるだけじゃ挑発するだけだって言いたいの」
「烏山くんは納得いかないかもしれないけど、生徒会を介入させれば学園から追放することも出来る。上手く利用して?」
一度目は我慢していたというのに聖と爽が助けに入ってきて揉めただけだし、二度目は戦わなければ自分の身が危なかった。一体どうしろというのか、彼等に諭されても理解が出来ない。
「犯されろ、って?」
「お、え、いや……そうじゃなくて」
ストレートに疑問をぶつければ奈央だけが動揺して言葉を詰まらせた。
「え、あいつらそういう目的だったの?それは悪かったね、ごめん」
「なぜお前が謝る」
「こっちの話、忍には関係ない」
いつも通りツンと澄ましているが、櫻が都古に謝る声音に棘はなかった。本当にただの喧嘩だと思ったのだろう。彼等があわよくば、と欲望を秘めていたことには気が付かなかったらしい。
「別に。アオが、無事なら……どうでも、良い」
触れられるのは御免だが、例えばもしそれで葵の安全が確保される状況に陥ったなら、自分の体一つ捧げるぐらいは構わない。誰に聞かせるつもりもないが、自分の覚悟を吐露すれば、先程よりも深く息をつかれるのが分かった。
でもそれも都古には関係のないこと。早く食事を終えて部屋に戻りたい。ただそれだけで箸を進めていく。
「明日補習ある?」
奈央にこう問われてももう答える気はなかった。十分彼等の相手はしたつもりだし、これ以上言葉を発するのも億劫だった。でも無視していると、トレーでぺしんと頭を叩かれる。
「先輩の質問には答えなさい」
「ちょっと櫻、暴力はダメだって」
痛いほどではないが不愉快だ。都古が睨みつければ櫻もトレーを片手に睨み返してきた。しばらく睨み合っていたが、奈央が諌めるのも聞かず櫻がもう一度トレーを振りかぶってきたことで、都古は仕方なく口を開く。
「……午後は、休み」
「そう、それじゃあ烏山くんも参加出来るね」
嬉しそうに微笑む奈央は訝しげな都古に対して携帯の画面を見せてきた。そこには明日西名家で開催される誕生日会の誘いが記されている。葵の言葉を冬耶が代筆して打ち込んだらしい。
「烏山くん、携帯持ってないでしょ?冬耶さんは明日羽田くんに迎えに行かせるって言ってたけど補習の予定が入ってたり、すれ違いになったら困るかと思って」
都古が参加出来るよう気遣ってくれたようだった。でも都古は主役である聖と爽を祝う気にはなれない。
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