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act.5三日月サプリ<63>

* * * * * * 夕食後、聖と爽宛にバースデーカードを書くつもりで一人自室に戻った葵は今違う事に気を取られて手が止まってしまっていた。 二人がモデルとして登場している冊子をもう一度眺めようと思ってカバンから取り出した際、もう一つ薄いパンフレットが現れたのだ。葵自身それを入れた覚えはなかったのだが、恐らくあの双子のどちらかが勝手に持たせたのだろう。 携帯電話のパンフレットは今までも何度か目にしたことはあった。欲しくないわけではないが、自分のお小遣いの範囲で持つには高額だ。かといって両親にねだるのも気が引ける。買ってくれようとするのも辞退し続けていた。実際京介と共に居ればそれほど不便はない。 でも葵はパンフレットに記載されている”海外通話”の欄に釘付けになってしまった。もし気軽に遥と会話することが出来たら。そんな想像に捕らわれて切なくなってしまう。 遥には沢山話したいことがあった。今日共に出掛けた聖と爽のことも紹介したい。奈央や櫻と二人で出掛けたことや、忍の家に泊まったことも話したい。沢山親しい存在が出来たのだと報告して、褒めてもらいたかった。 それに相談したいことも山ほどある。葵は自分の手帳に挟んだ写真を一枚取り出して溜息を零した。 歓迎会前に送られた自分の過去の写真。送り主はあのサングラスの男で間違いないと思うが、目的が未だに分からない。でも西名家に対しての敵意は鈍い葵でも感じていた。 侮辱するような言葉を並べられたのだと、その本人達に相談することはどうしても出来ない。”偽物の家族””葵を引き取ったのは金目的”、そう言われたと告げれば、きっと彼等は悲しむに違いない。 遥なら一体何と言ってくれるだろうか。柔らかな笑顔を思い出しただけで目頭がツンと熱くなる。 “何かあったら連絡しておいで” 手紙でもメールでも電話でも構わない。そう言って遥に渡された連絡先の書かれたメモも手帳に大事に挟んであった。 でもきっと今遥の声を聞いたら泣いてしまうし、会いたいと我儘を言ってしまう気がする。夢を追って勉強している彼を困らせることもまた、葵は避けたかった。 "葵ちゃんなら、がんばれるよね" 別れ際に確かめるように問われた言葉も葵を思い留まらせていた。もうむやみに頼らないように。そんな牽制に思えてしまうのだ。

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