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act.5三日月サプリ<64>
「……会いたい」
せめてこうして一人ぼやくのは我慢しなくてもいいだろうか。机に顔を伏せて遥への恋しさを募らせていると、少し強いノックの音が響く。その音だけで兄弟のどちらかが分かってしまう。
「京ちゃん?」
写真とメモを仕舞い直しながら尋ねれば、返事の代わりに扉が開いた。やはりそこに居たのは京介だった。
「カード、書き終わった?」
「……まだ」
「おせぇな、どんだけ時間掛かってんだよ」
双子へのメッセージを見られるのが恥ずかしいからと彼を遠ざけて一人で部屋に篭ったのだから、怒られるのは無理もないかもしれない。京介は呆れた様子で葵のベッドへと勝手に寝転がってしまう。
でも葵がカードを書き終えるまでは机には近づかないで居てくれる。その優しさが嬉しい。
「お前、明日宮岡のとこ行ける?日にちずらしたほうがいいんじゃね?」
ペンを取ってカードへと向き直れば京介からは明日の予定である宮岡との面会について触れられた。明日は午前中宮岡に会いに行き、午後西名家で双子を迎え入れる流れだった。前回のように病院に行っただけで過呼吸を起こしてしまえば、誕生日会どころではないのは明らかだ。
「でも病院じゃないんだよね?大丈夫だよ」
「あんま気軽に考えんな、馬鹿」
宮岡とは病院ではなく近くの喫茶店で会おうと言われている。本当にただ楽しくお喋りをするつもりで居て構わない、そう伝えられてもいた。だから葵は別段心配していなかったのだが、京介には安直すぎだと咎められてしまう。
「宮岡先生は、大丈夫」
どうしてそう確信出来るのか分からないが、一度会っただけの存在を信頼出来ると感じていた。
二人分のカードを書き終えて机から離れれば、ベッドに転がる京介が手招きしてくれる。素直にその腕の中に飛び込むとぎゅっときつく抱き締められた。今日はいつもよりも煙草の残り香が強い。京介が苛立っていた証拠だ。
「京ちゃん、なんで怒ってたの?」
「お前は自覚ある?」
質問に質問で返された。でも葵には答えるのが難しい。京介を怒らせるようなことをした憶えはなかったのだ。でも彼の深い茶色の瞳の奥にはまだ怒りが滲んでいるし、咎めるように頬も抓られる。
「分からない。……教えて?」
素直に願えば、彼は葵の上に覆い被さるように体勢を変えてきた。葵よりもずっと背が高く肩幅も広い体に伸し掛かられると、葵一人で眠るよりもベッドが深く沈み込む感覚がする。
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