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act.5三日月サプリ<68>
* * * * * *
「葵さん、何やってんの?さっさと上がりたいんだけど」
熱すぎないお湯に浸かりながら京介は向き合う形で座る葵に声を掛けた。京介はあくまで他の男の痕跡が残る身体を洗わせたかっただけで、長風呂をする気はない。けれど、葵は泡風呂の入浴剤の封を切って湯船に落とし始めてしまう。
「これね、いい匂いなんだよ。櫻先輩に貰ったの」
葵は京介が風呂上がりに何をしようとしているか、なんてちっとも察していないようだ。それでもふわふわの泡を掬いながら微笑んでくる葵を可愛いと思ってしまうのだから駄目なのだと思う。
葵がこの家にやってきた頃は、こうした入浴の時間も嫌がっていた。何をされていたのか葵の口からは具体的に聞かされたわけではないが、あの母親に浴室でも虐げられたことは想像がつく。水が苦手なのもきっとそのせいなのだろう。
「今日聖くんと爽くんとボート乗ったんだ」
「へぇ、怖くなかった?」
水面に浮かぶ泡と戯れながら、葵が双子とのデートの話をしてくる。京介はあくまで知らないフリをして返事をするが、その光景は冬耶と並んでしっかりと観察していた。双子にボート乗り場に連れて行かれる葵を救いに行こうか兄弟で相談したぐらいだ。
「二人が一緒に居てくれたから大丈夫だった。楽しかったよ」
湖での記憶を蘇らせてまたパニックになるかと思いきや、それを克服したようだった。それが聖と爽のおかげだと言われるとどうしても妬く気持ちは否めないが、穏やかな笑顔になる葵を見られて安堵もする。
「良かったな」
手を伸ばして濡れた髪を弄れば、葵ははにかみながら頷いてきた。
のぼせないように、そんな配慮で湯船に浸かる前に少し浴槽の湯を抜いていた。そのお陰でさっきから葵の華奢な肩から胸元までちらちらと泡の隙間から覗いている。
裸なんて見慣れているし、お互い隠すような間柄でもない。それでも、京介は随分と前から目の前の身体を見るたびに欲情を抑えきれなくなってきている。それを堪えることにも慣れていたが、今夜はこのままベッドに連れ込んでいい加減抱いてしまいたい。
だが京介の決意とは裏腹に、浴槽の縁に並べたバスケットからおもちゃを取り出し浮かべ始めた葵はまだゆっくりと風呂で遊ぶつもりらしい。
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