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act.5三日月サプリ<79>*
葵はまだ後ろだけでは快感を見いだせないらしい。本格的に触れたのはついさっきなのだから、当然なのかもしれない。痛みはないようだが、前は思うように反応しない。それに、もう一本指を潜り込ませることも困難に感じる。
葵を抱きたい。その感情はもうとっくに限界を超えているが、今無理に突き入れればただのレイプに相違ない。
根気よく解すことを選んだ京介は、一度覆いかぶさっていた葵から体を上げると、ベッドに転がしたピンクのボトルを再び手の平へと傾ける。
「……ん、それ……」
「あ?知ってんの、お前」
荒い呼吸を整えながら葵が見つめているのは京介が手にするローション。まさかこれすらも使われたことがあるのかと苦い気持ちになる。
だが葵を問いただして出てきた答えは、医療行為として保険医に使われた、ということだった。”頭痛薬”なんてとんでもない嘘をつかれていた。そして何より腹立たしいのはその現場に幸樹が居たということ。
「あいつ……次会ったらブチ殺す」
保険医に騙されて襲われかけていた所を救ってくれたのは感謝するが、京介に黙っていた上に洗い流すことまで請け負ったらしい。ただ洗うだけ、それでもこの体に触れたことには違いない。
「あたま、痛くないから」
もう一つ問題なのは、ぬるついた液体の正体がこれだと知って葵があからさまに拒みだしたことだ。体を丸めてイヤだと首を振ってしまう。”薬”だなんて嘘が悪い方向に働いている。
「どいつもこいつも邪魔しやがって」
悪態はつくけれど、泣く葵を抱き締める腕は極力優しくしようと努める。葵が悪いわけではない。全ての元凶はこういう育て方をした自分のせいだ。
まずは薬を過剰に摂取したと怯える葵をなだめるのが先決だ。自分の膝の上に座らせて薄い背中をさするだけじゃない。安心させるように顔中にキスを落してやると、ようやく震えが治まってくる。でもそれはそれで厄介だ。
「京ちゃん、もうおやすみ、しよ」
すんと鼻を啜って擦り寄ってくる葵は相当眠くなってきてしまったらしい。甘えてこられるのは可愛いが、盛りがついた体をどうしろと言うのだろう。
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