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act.5三日月サプリ<80>

「……いや、お前さ、ちょっと待って。寝らんねぇって言ってんだろ、馬鹿」 「おまじない、する?」 葵は京介の苦悩など知らずに、無邪気に丸い瞳で見上げてくる。 「してみろよ、じゃあ」 ヤケになって挑発すれば、葵は京介の頬を自分の手で包み、ちゅっと唇を合わせてくる。子供っぽいキスだ。もっと深いことを教えているはずなのにこれが葵なりのキスらしい。 「おやすみ」 「……おいコラ、てめぇ、ふざけんな」 これで大丈夫と言いたげに微笑む葵につい声を荒げてしまう。 赤く尖った胸を見せびらかすようにパジャマを肌蹴させながらしてくれる”おまじない”がどんなものか。うっすら期待した自分が馬鹿らしい。 「……なんか、ムズムズ、する」 おまけに眠そうに体を凭れかけてくる葵が腰を揺らして吐息を零すのだから余計に苛立つ。ローションが乾いてきてむず痒いのだろう。でもそれを無防備に訴えてくるなんて馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。 “今日は悪い夢を見ないと思う” そんなことをふわふわとした口調で呟いてくる所をどうしようもなく愛しく感じてしまう末期な自分にも呆れが止まらない。 もう瞼が閉じかけている葵相手にこれ以上悪戯を仕掛けるのは諦めざるを得ない。パジャマを直してやり、枕代わりに腕を差し出せばころんと小さな体が寄ってくる。 数度頭を撫でてやれば、すぅと穏やかな寝息が聞こえ始める。散々泣かせたせいで濡れる目元を拭うとくすぐったそうに唇が緩むのが可愛らしい。 「お前、どんだけ試したら気が済むの?」 それともこれは葵を騙し続ける罰なのだろうか。素直に愛していると言えれば結果は違ったのだろうか。 後悔しても遅いし、葵に尋ねても仕方がない。頭では分かっていてもやるせない気持ちをぶつける先はやはり葵しか思い当たらない。 けれど、どちらにせよ、葵の体を割り開くには時間が必要だということは学習できた。あのまま無理に進めていても決していい結果にはならなかったと思える。 自分だけが満たされても仕方ない。出来れば葵からも求めてほしいし、繋がることに意味を感じてほしい。 「……きょ、ちゃん」 こうして眠りながらも呼ぶほどには葵も自分を欲してくれている。今はまだそれで我慢しなくてはならない。 「あぁホント、末期だな」 起こさないように唇を奪いながら、京介は冷めない熱を持て余して固く目を瞑った。

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