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act.5三日月サプリ<85>

『明日も仕事?アキも来る?』 「……行けると思うか?」 『あとで場所送っておくよ。同じフロアに二つ、店が並んでいるんだけど、個室のスペースは奥で行き来できるようになってるんだ。入口は別だから……』 「行かないって」 人目を気にするのはお互い同じ。密会に適した場所を数多く知っている宮岡は今回の店もきちんと選んだのだと教えてくるが、穂高が聞きたいのはそういうことではない。すぐに宣言をすれば、宮岡からは笑い声が返ってきた。 『行けない、じゃないってことはアキ次第ってことだな』 言葉尻を捕らえて茶化してくる彼は本当に腹立たしい。 『会って直接伝えればいい。藤沢に誘われても戻るべきじゃないって』 「それが出来たら苦労しない」 『じゃあせめて”生”お坊ちゃまを見に来たら?写真じゃ物足りないだろう』 「嫌な言い方しないでくれ」 穂高にとって葵がどれほど神聖で尊い存在か知っているはずなのに、下世話な想像を掻き立てる物言いに苦情を言いたくもなる。 けれど宮岡は懲りもせずに誘ってくる。 『会わなくてもいい、見においで。あの子が笑っている顔を見たらきっと安心するから』 柔らかな宮岡の声がイヤに耳につく。 人形としての笑顔じゃない。自然な笑顔を見ることが出来たのなら。きっと自分は……。 ────抱き締めたくなる。 もう幼い”お坊ちゃま”ではない。分かっているけれど、あの頃のように自分の腕で抱きとめてやりたい。 「宮岡のせいだ」 『え、何が?』 慌てる宮岡に悪いとは思いつつも、簡単に別れを告げて通話を終了させた。 今の姿の葵を抱き締める想像をしてしまった。そして、図々しくも”ほだか”と、名を呼ぶ声まで思い描いて切なくなる。そんな未来はきっと来ない。だから思い出にだけ浸って、自分と葵の未来など考えないようにしていたのに。 忘れられている。それがこんなにも辛いなんて。必死に押し隠してきた感情が溢れ出して、苦しくて堪らない。 「宮岡のせいだ」 空虚な部屋で穂高はもう一度、友人への恨み言を口にした。

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