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act.5三日月サプリ<87>

「昨日ちゃんと髪乾かさなかっただろ?だからお兄ちゃんがやるって言ったのに。あいつはホントに」 寝癖の酷さが濡れたままで寝たことを示していた。それが原因で体を冷やしたようだ。独占欲が強いのは構わないが、面倒を見きれないならこのぐらいの役目は譲って欲しい。どこまでも意地っ張りな弟に呆れしかない。 「ちょっと寒いなって思っただけで。だからすぐに治るよ」 「じゃあ今日は予定通りがいい?」 「……ん」 葵の言いたいことは分かる。冬耶に対して誤魔化そうとした理由も。 今日は京介が見つけたという医者のカウンセリングに行くと葵自ら言い出したというし、その後は双子の誕生日会と称して皆を家に招く予定だった。皆が都合を付けて集まってくれることも葵は理解している。だから熱が出て台無しにするなんてことは出来ないのだろう。 「皆に内緒にして、お兄ちゃん」 可愛い顔をしておねだりをされれば、兄としても心が揺らぐ。 きっと遥なら”皆に伝染ったらどうする”なんて叱りながら、きちんと葵を宥めてベッドに向かわせるだろう。本当はそれが正しいはず。でも今日で連休は最終日。いい思い出を作らせてやりたい。 「じゃあお薬飲んで、もう少しだけ寝よう。それで具合が良くなったら遊んでいいよ」 この甘さは冬耶が遥に叱られるに違いない。それでも不安そうに自分を見上げてくる葵をがっかりさせたくはなかった。抱き締めて頬ずりすれば、葵からは嬉しそうに腕が回ってくる。 「お兄ちゃん、大好き」 「こら、まだ良いって言ってないからな?」 「大丈夫、ちゃんと良くなる」 「しょうがないなぁもう」 しがみついてくる葵を抱き上げながら、薬と水を準備してやる。苦い粉末の口直しに、とジュースを用意するのも忘れない。 冬耶からすれば錠剤やカプセルのほうが無味無臭で良いと思うのだが、異物を飲み込むよりも、粉末の苦味を我慢し後でその味を消すほうが葵にとっては楽らしい。 「あーちゃん、あーんして」 ダイニングの椅子に座らせた葵の口を開かせて封を開けた袋を口元に運んでやる。葵は一瞬辛そうな顔をしてみせたけれど、大人しく飲み込んでみせた。 そしてすぐに甘いリンゴジュースを口に入れて苦味を流し込む姿は、本人は至って真面目なのだろうが冬耶からすれば思わず笑ってしまうほど必死で可愛らしい。 「いい子だね」 褒めるように頭を撫でてやれば、真っ直ぐな笑顔が返ってくる。この素直さをもう一人の弟にも少しぐらい分けてやってほしい、そんな馬鹿なことを考えてしまう。

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