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act.5三日月サプリ<90>

* * * * * * 待ち合わせに指定されたのは降り立ったことのない駅の一角だった。明るい内装のカフェは人気なのか混み合っていたけれど、名前を告げればすぐに奥に通された。 「……京ちゃん」 「何、ビビってんの?お前が行くって言ったんじゃん」 繋いだ手に力を込めれば、京介からは呆れたように見下された。けれど、いざとなるとやはり不安が生まれてくるのだ。 「やめる?」 それでもこう尋ねられれば首を横に振るしかない。”普通の子”になりたい。その願いを諦めるわけにはいかなかった。 今朝二度目に目を覚ました時は冬耶の腕の中に居て、京介にはそのことも来る道すがら怒られてしまった。昨日”途中”で眠ったことも詰られた。 あの行為の先に何があるのか分からなくて尋ねたけれど、拗ねた様子の京介はちっとも口を聞いてくれなくなったし、繋いだ手は乱暴なくらいに強く握られていた。でも今葵を宥めるように髪を撫でる仕草は優しい。 「……京ちゃん、もう怒ってない?」 「それはまた別の話」 まるで葵のほうが分からず屋とでも言うように京介は頬を抓ってくるが、それもまたチクリと痛むだけで戯れの範疇だ。 店員に通された部屋には既に宮岡が待っていた。白衣姿でないのは当然なのかもしれないが、薄手のニットにカーゴパンツ、なんてラフな格好はそれだけでも葵の緊張を解してくれる。 「こんにちは、葵くん」 京介は部屋の隅のソファに腰を下ろしてしまったし、宮岡もただ葵のほうだけを見て微笑んでくる。あくまで宮岡と二人でお喋りするのだと示されているようだった。 宮岡の正面に座ろうとすれば、彼は自分の隣をぽんと叩いてくる。 「隣で、いいんですか?」 「真正面だと緊張しちゃわない?」 まるで葵の心を見透かしたように笑う宮岡に、葵はやはりこの人なら大丈夫だと改めて感じることが出来た。会うのは二度目だというのに、葵の全てを知っているような、その上で温かく包んでくれるような、そんな空気を感じるのだ。 「ここは紅茶が美味しいんだよ。あ、スコーンも頼んでいい?朝食はちゃんと食べてきたんだけど……私は少し食いしん坊なんだ」 「スコーン、好きです」 「そう、じゃあ一緒に食べましょうか」 悪戯っぽく笑う宮岡にするすると心が解けていく感覚がする。

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