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act.5三日月サプリ<94>

「それから、夢を、見ました」 「……どんな夢、かな」 思い出したくない。身体が訴えるように震えるが、宮岡が撫でてくれることでそれは治まっていく。そして軋む音を立てながら扉が開き、あの夜のその後の記憶がじわりと溢れ出て来た。 絵本に登場した動物たちと城へ向かう。そこまでは平和だったが、場面は一変して母が現れた。 「ママが、償いなさいって」 傘の先で葵の胸を突き、湖へと落とされた。それは夢だけの出来事ではない。現実に過去、起きたこと。そして夢から覚めた自分はそれを真似るように自ら……。 「あ、あぁ、どう、しよう」 とんでもないことをした。空気を求めるように唇をわななかせ、自分の犯した過ちを認められなくてがむしゃらに頭を振ることしか出来ない。 幸樹が葵の前に姿を現さない理由がようやく分かった。奈央のせいではない。まず間違いなく葵のせい、だろう。周りがついた優しい嘘に今まで気が付かなかったなんて情けなくて仕方がない。 でもそんな葵の哀しみまで宮岡は包み込むように抱き締め、そして呼吸が落ち着くまでひたすら根気よく葵の身体を温めてくれる。 「思い出さなければ良かった、かな?」 「……いえ、上野先輩に、謝らなきゃ」 思い出さないままで居たかった。そんな気持ちが無いと言えば嘘になる。けれど、自分の行動の責任を取らぬまま周囲に甘やかされて居たくはない。 「君は強い子だ。本当に、強い子だよ」 宮岡は葵の頬を伝う涙を拭って、にっこりと笑ってくれる。その声はどこまでも優しくて、ちっとも泣き止めそうもない。 「そうだ、そんな子にはこれをあげよう」 彼がそう言ってカバンから取り出したのは小さなガラスの瓶だった。中にカラフルな星が詰まっている。 「こんぺいとう、ですか?」 「そう、元気が出るお薬、です」 その響きにはどこか懐かしい覚えがあった。もしかして、そう思って宮岡から瓶を受け取ると、側面に貼られたラベルは葵の幼い頃の記憶と寸分違わぬものだった。 「これ、小さい頃食べてました。中に一つだけお月様の形のこんぺいとうが入ってるんですよね」 「そうなの?それは知らなかったな」 「それが一番元気になるお薬になるんです」 宮岡に示すように瓶の蓋を開け、黄色い三日月を探し当ててみせる。ほら、と差し出せば宮岡は驚いたように目を丸くした。 「じゃあこの黄色いのが一番好きだったんですか?」 「これはあんまり食べたことないです。だっていつもこれは……」 そこまで言いかけて葵はまた封じ込めていたはずの記憶の扉の鍵が緩んでいることに気が付く。 葵が泣くとこっそりこの金平糖を口に放り込んでくれた。だから葵はお返しに一番大切な黄色い月を見つけてはハンカチに包んで大切に取っておいたのだ。そしてそれを渡したのは誰だったのか。

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