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act.5三日月サプリ<96>
* * * * * *
今日はこれから大好きな人達と”誕生日会”をするのだという。京介と手を繋いで弾んだ足取りで店を出た葵を見送れば、彼は元気に手を振ってくれた。その姿が小さくなるまで目で追っていると、路肩に見覚えのある車が停まっているのが見えた。
一応は周囲を気にしながら宮岡がその車に近づくと、やはり運転席には予想通りの人物が居る。予想外だったのはハンドルに顔を押し付けるようにして彼が泣いていること。
邪魔するべきではない、そう思うが放ってもおけない。窓ガラスを叩いてこちらの存在を示せば、顔を上げた彼は気まずそうにロックを外してくれた。
「やっぱり来たんだ」
「……そもそも、何でうちの近くで会うんだ。嫌な奴」
助手席に乗り込めば、彼、穂高はぎろりと睨みつけてくる。普段は至って柔らかな表情しか浮かべないが、宮岡に対してはどうにも手厳しい。
でも怒られるのも無理はない。この場所は穂高が暮らす場所からわずかな距離。彼がもし葵と出会ったことがバレたとしても言い訳が立つ。そんなちょっとした配慮のつもりだったのだが、咎められてしまった。
「見られた?葵くんの笑顔」
感情を表に出さないようにしている穂高が涙を零していたのだから、聞かずとも分かっている。付き合いはそれなりに長い。悲しい涙か、そうでないかぐらいは判別できるつもりだった。
「アキにお土産。ワーカーホリックな君には癒やしが必要だろう?」
「……これ」
「無許可だから内緒ね」
穂高に手渡したのはICレコーダー。葵との会話を記録したものだった。穂高は戸惑う様子を見せたけれど、その誘惑に勝てなかったのか癖のある髪を耳にかけ、イヤホンを差し込んだ。
時折脇を通る車のエンジン音が聞こえるだけで、車内はただ静かな空気で満たされている。けれど穂高が久しぶりに耳元で葵の声を感じていると思えば、宮岡はいくらでもこの沈黙を楽しむことが出来た。
「……宮岡、食べ過ぎじゃない?」
「え、そこ?もっと他にあるでしょう」
じっくりと葵の声に耳を傾けた穂高がイヤホンを外しながら、宮岡に冷たい声を掛けてくる。けれど纏う雰囲気は格段に和やかになった。
「もう一つお土産。これを食べていたのは君だね」
別れ際、葵は宮岡に黄色の金平糖を渡してくれた。今日のお礼だという。でもこれを受け取るべきは自分ではなく目の前の彼だろう。だから手渡してやれば、穂高はまた泣きそうに顔を歪めた。
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