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act.5三日月サプリ<97>

「君が金平糖なんて可愛いものを”元気が出る”なんて言って持ち歩いているから、きっと葵くんが理由だと思ったんだ」 「私のことを思い出したらどうするつもりだったんだ」 「でも葵くんは思い出したいみたいだよ?あの子の願いを無下にするのか?」 「……宮岡が差し向けたんだろう」 どうしても穂高は自分の存在を思い出してほしいとは口に出せないらしい。彼が自分に課した罰なのだろうが、それがいかに愚かなことか、宮岡は知らしめたかった。恨むような目を向けられても反省しようとは思わない。 「私はあの子に満足な食事を用意してやることが出来なかった。だからせめて私が居ない間、口寂しくないように枕元にこれを隠してあげていて……。それじゃちっとも満たされなかったはずなのに」 記憶を遡らせ始めた穂高の声は悲痛にも感じられる。 宮岡は当時ただ穂高のクラスメイトとして接していただけだった。だから実際彼等がどれほど過酷な生活を送っていたかを初めて伝え聞いた時、とても驚かされた。 「葵くんにとっては大事な記憶のようだね。アキの事を思い出して、そして君が今も尚愛してくれていると知ったら、きっと幸せに感じると思うよ」 葵は辛いはずの記憶に蓋をしてしまいがちではあるが、きちんと向き合う強さがあるということを今日の会話で宮岡は感じていた。 穂高は自分の記憶を呼び覚ませば当時の恐ろしい出来事まで溢れさせて葵が壊れてしまう、そう恐れているが、ゆっくりと段階を踏んでいけばきっと立ち向かえると信じられる。 「葵くんの抱えるコンプレックスもきちんと解きほぐしてあげたいね。帽子を目深に被っているのも容姿を気にして、だろうし」 葵は自分の嫌いなところとして髪と瞳の色を真っ先に挙げた。覗き込まなければ顔が確認出来ないほど帽子を深く被っているのはそのせいだと、容易に想像がつく。 「奥様の血筋で過去お坊ちゃまと似た容姿の方が居たと伝えたはずだ。奥様も生まれつき色素が薄いほうだったようだし、遺伝の可能性が高い。そう教えてやれば安心するはずなのに、どうして言ってやらなかった?」 「それは調べたアキの役目だろう。私は手柄を横取りなんてしないよ」 穂高は葵を慰めなかった宮岡を責めてくるが、ずっと葵の異質な容姿の原因を調べ続けていた穂高の口から教えてやるべきだと思う。言い返せば、穂高はそっと窓の外に視線を外した。

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