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act.5三日月サプリ<107>

* * * * * * 昨日は人生の中で一番の誕生日を過ごせたと聖は思う。弟も同じ感情のはずだ。でも互いの顔は今、どうしても晴れてくれない。 昨夜唐突に冬耶から呼び出しの連絡があったのだ。葵が待っていると告げられれば行かざるを得ないが、嫌な予感がしてしまう。冬耶に怒られる心当たりは山ほどあった。 指定された時間と場所で爽と共に待機していれば、そこに現れたのは西名家の人間でも無ければ、葵でもない。自分達と同じく双子の先輩、綾瀬と七瀬だった。 「お待たせー」 改札から現れた七瀬は聖達を見つけるなり駆け寄ってくる。彼はいつもこうだ。無駄に走る。ふわふわの猫っ毛を揺らしてやってくる彼は黙ってさえいれば可愛いが、外見にそぐわない中身をしていることは嫌というほど知っている。 「今日羽田先輩も呼ばれてるんですか?」 「えー?あぁ、聞いてないのか。サプライズねぇ、なるほど」 聖の質問に対する直接的な回答はせず、七瀬はなぜか納得したように頷いている。その表情はどこか悪戯っぽい。 七瀬を追うようにゆっくりと歩いてきた綾瀬は言葉を発さずにただ聖達に軽く手を上げて挨拶を済ませてくる。彼等は容姿も似ていなければ、性格も対照的だ。同じ双子としてはこうも真逆になるのが不思議でならない。 西名家には何度か足を運んだことがあるという七瀬の先導を受け、駅前から閑静な住宅街へと進んでいく。特にこれといって特徴のある街ではないが、ここで葵が育ったのだと思うと妙に感慨深い気持ちにさせられた。 「葵先輩とは中等部から仲良かったんですよね?」 「そうだよ。一年でクラス一緒になって、それから。ね、綾」 「……あぁ」 葵抜きで二人と会話する機会などほとんどない。西名家への道すがら、せっかくのチャンスだからと聖が葵との関係に触れれば、七瀬は綾瀬と腕を組んでにこりと笑ってきた。 「西名先輩と羽田先輩しか友達が居なかったってホントっすか?」 「それ、葵ちゃんが言ってた?」 「はい、クラスで嫌われてたと思うって」 次に二人に問い掛けたのは爽だった。どうやら聖の知らないところでそんな会話を重ねていたらしい。

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