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act.5三日月サプリ<109>

「何やってるの?こっちだよ」 七瀬に催促され隣家へと向かえば、そこには色鮮やかな花が咲き乱れるプランターが並べられ、ガレージの奥に見える庭先にもカラフルなパラソルが開かれている。見るからに温かな家庭だと窺える。 「言ったでしょ?過去は過去。葵ちゃんの今はここにある」 ただ隣家に住んでいる幼馴染、だと聞いていたがどうやら真実は違うらしい。七瀬は意味深な言葉と共に、勝手に門を開けて玄関へと向かってしまう。 「俺達も深い事情は知らない。むやみに探るなよ」 七瀬の後を追う綾瀬にはそう念押しをされた。寡黙で冷たいように見えて、彼も友人として葵を大切にしているのだろう。事情を知らずとも友情は変わらないのだと宣言しているようにも思えた。 「葵先輩、愛されてるよね。……いいな」 ずっとそういう環境に居たわけではないことは葵本人や周囲からの話で学習したつもりだ。でも、葵を中心に広がる輪は温かくて優しい。自分達には無いものだった。葵を愛す者としてはおかしいのかもしれないが、親しい人間が極端に少ない聖にとって羨ましさは拭えない。 学園で唯一葵ときちんと過ごせる時間はランチタイムぐらいだ。それだって葵が許可しているから、周りが渋々双子の同席を認めてくれているだけ。 葵だけじゃない。京介や都古、綾瀬や七瀬。それに葵が所属する生徒会にも馴染んでみたいという願望は膨らみ続けているというのに、ちっとも上手くいかない。 「俺達のこと、受け入れてくれないっしょ」 恋敵同士仲良くしようなんて思うほうが不自然だ。奈央はまだ生徒会の手伝いに来てもいいと言ってくれたが、他の先輩達はライバルを一人でも減らしたいはずだ。 爽だって望んでいるはずなのに、現実的な返事をしてくるのだから聖の気分は更に沈んだ。だが、先に中へと入った綾瀬や七瀬の代わりに中から愛しい存在が顔を出せば一気に心が舞い上がる。単純な自分に呆れてしまう。 「聖くん、爽くん」 扉から顔を出し、手招きしてくれるのはもちろん葵だった。素直に駆け寄れば、葵は満足げにドット柄の三角帽子を手渡してくる。今まで一度だって付けろと指示されたことがないものだが、どんな用途かは分かる。パーティで付けるもの、だ。 「「なんですか、これ」」 「いいから、付けて。早く」 挨拶もそこそこに急かしてくるなんて葵らしくない。でもその瞳がいつになくきらきらと輝いているのだから、無下にも出来なかった。 玄関先に既に沢山の靴が揃えられているのも気に掛かる。どう見ても家族の人数以上だ。でもそれを尋ねる間もなく、葵は二人の手を引いて廊下を進んでいく。

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