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act.5三日月サプリ<110>

「ここからは目、瞑ってね」 今日の葵はリクエストが多い。一体何を計画されているのか分からず爽と顔を見合わせるが、催促するように袖を引かれて大人しく瞼を閉じた。 葵が扉を開けた音が聞こえ、自分達もその中に招かれる。もちろん要望通り目は瞑ったまま、だ。でも何やら沢山の人の気配がするのは感覚で分かる。 「……もういいよ」 ようやく葵の許可が下りて瞳を開けば、そこには予想外の光景が広がっていた。 高い天井に無数に浮かんだ風船と、ガーランド。星型のライトまで飾り付けられている。その中に”Happy Birthday”なんて文字があるのだから、この空間が何のためのものなのかすぐに思い知らされる。半ば強引に被せられた帽子も主役の証だと分かった。 何よりも驚かされたのはリビングのソファで二人を待ち構えていた顔ぶれだった。西名家の兄弟は、さっき共にこの場までやってきた綾瀬と七瀬だけじゃない。ついさっき、自分達を排除したいに違いないと思っていた生徒会の先輩達まで居たのだ。 「一日遅れだけど、ちゃんと誕生日会したかったから。突然ごめんね」 驚き固まる聖と爽を、主催者の葵が少しだけ不安そうに覗き込んでくる。 「「葵先輩、ありがとう」」 本当は沢山言いたいことがあった。けれど、自分達を迷いなく温かな場所に導く葵に感謝以外の言葉が上手く出てこない。爽と共に抱きついて伝えれば、葵はくすぐったそうに笑い返してくれる。 調子に乗って両頬にキスを落とし始めるとさすがに怖い顔をした京介に引き剥がされてしまったが、葵を挟んでソファに座ることは許してもらえた。 そこでようやく一人、この場に居ない人物の存在に気が付く。都古が居ない。ランチタイムですら双子が葵とくっつくとすぐに飛んできて邪魔してくるというのに、今は気配すら感じない。 葵は彼にも当然声を掛けてくれたのだと思う。けれど、今姿が見えないということはそういうことなのだろう。 顔を合わせる度に葵を巡って喧嘩してきたのだから、都古に好かれているはずはない。分かりきってはいたが、聖は都古とだってもう少し仲良くなってみたいと思っていた。爽も同じ気持ちのはずだ。 連休中に葵抜きで会話をする機会だってあった。歩み寄れたと思っていたのだが、まだほど遠いらしい。やはり同じことを考えていたのか、爽を見やれば彼も肩をすくめて溜息を返してきた。 「葵先輩、俺、頑張ります」 「……ん?何を?」 「幸せな空間作れるように、頑張ります」 抽象的な宣言は葵に不思議そうな顔をさせてしまう。でも聖は今、葵にそう伝えたくなった。 葵が大好きな人やもので囲まれる時間を一秒でも多く増やしてあげたい。自分達に対して葵がしてくれたことをしっかりと返したい。

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