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act.5三日月サプリ<111>
「聖くんが一緒に居てくれたら、幸せだよ?」
「……あぁ、もう天然って憎い。なんでそういう可愛いこと言うかな」
さも当たり前のように返された言葉は、受け取り方によっては愛の告白にもとれる。葵にそんな気が無いことが分かっているからこそ、憎いのだ。
「じゃあ一生一緒に居ますね。……ッテェ」
葵の期待に応えるべくもう一度頬に唇を落とそうとすれば、今度は四方八方から邪魔が入った。
葵を挟んで向かいにいる爽に額を抑えられるだけじゃない。正面のソファからは櫻がマカロンの包みを絶妙なコントロールで投げつけてくるし、京介には葵に唇が触れないよう首根っこを掴まれてしまう。なぜか七瀬まで聖の足を踏んでくる始末。手出しはせずとも、足を組んでこちらを睨みつける忍の視線は冷ややかだ。
唯一奈央だけは、過剰な防御にやられる聖に憐れみの目を向けてくるが、邪魔しないあたり、葵へのスキンシップには反対なのだろう。
「ほっぺぐらいいいじゃん、ケチ」
悪態をつくが人数的に敵いそうもない。悔し紛れに葵に抱きついて周りを睨みつけるが、一番の問題はこの状況を理解せずに聖の頭を撫でてくれる葵にあると思える。
皆と仲良くしつつ、葵を手に入れるにはどうしたらいいのか。きっとこんな悩みを抱えているのは聖だけではないはずだ。
冬耶が火の付いたバースデーケーキをキッチンから運んで来てようやく雰囲気が元通りになるが、聖は一時的に暗くなった室内で隣の葵に小さく囁いてみせた。
「先輩、後でまた昨日の誕生日プレゼント、頂戴」
「なッ……だめ」
焦る葵の声を尻目に、爽と二人でロウソクの火を消せば、また冬耶が部屋の明かりをつけ直してくれた。頬を染める葵を眺めるのが楽しみだったのだが、期待に反して葵は爽にくっついて顔を隠してしまっている。
「聖……お前何言ったの」
「別に?」
悪戯の犯人を見抜いた爽は呆れた顔をしてくるが、葵に抱きつかれて口元が緩んでいるのを誤魔化せていない。
「聖くんのバカ」
恨めしそうな声すら愛しい。だから苛めたくなるのをいい加減自覚してほしいのだが、きっとこういう所は変わらないだろう。
「期待してますね」
微笑んで見せれば、葵はますます赤くなる。でもしっかりと昨日のことを覚えてくれている証拠だと思うと嬉しくて仕方ない。
昨日も最高の誕生日だったが、今日もそれに匹敵する日になりそうだ。
イチゴが乗ったケーキが切り分けられ、櫻が持ち込んだという紅茶が人数分カップに注がれていく。決して派手なものではないが、葵が飾り付け、人を集めて開いてくれるパーティ程幸福なものはない。
この思い出があれば、毎年、誕生日から数日過ぎた頃に母親から謝罪と共に渡されるプレゼントに胸を締め付けられる思いをしなくてもすむ。
聖は葵を取り囲んで一気に賑やかになったテーブルを眺めながら、そんなことを思った。
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